こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

利休にたずねよ

otello2013-08-20

利休にたずねよ

監督 田中光敏
出演 市川海老蔵/中谷美紀/伊勢谷友介 /大森南朋/福士誠治
ナンバー 197
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

「美は私が決めること」。傲慢な言葉に秘められた揺るぎなき自信はどんな権力者を前にしても変わらず、決して媚びたりはしない。自然と人の調和、シンプルな中にも驚きと発見を生む一方で、目もくらむ輝きで圧倒する。「思い通りにならぬものはこの世にない」と驕り高ぶる天下人はそんな男に対し、最初は心酔し、次に影響力を利用し、手に負えなくなるほど大きくなると排除しようとする。秀吉が最も敬愛し、恐れた茶人・利休。物語は武力でも権力でもなく“理想の美”で乱世を鎮めようとした彼の、在りし日の秘め事を描く。100年以上続く戦乱の世で人々が探し求めていた浄土が角盆に張られた水に映った満月で再現されるシーンに、利休の世界観が凝縮されていた。

秀吉に頭を下げるのを潔しとせず切腹を命じられた利休は、介錯人が到着するまでの間己の過去を顧みる。それは、信長・秀吉と戦国の覇者に寄り添いながらも、茶道では臣下の礼は取らぬという生き方だった。

極限まで無駄を削ぎ落としたにもかかわらずほのかな余韻を残す器で「閑」の境地を味あわせ、絢爛の極みともいえる黄金の茶釜で意表を突く。苦みの効いた茶を点てたかと思うと稗粥を振る舞う。形式にとらわれず対面した相手が何を求めているかを瞬時に判断してもてなす、その人の心をつかむ術に長けた利休=宗易が、“人たらし”の異名をとる秀吉の怒りを買うのは、2人が正反対のようで同質のコインの表裏のような関係だから。茶の湯の作法から茶器茶室といったディテールにまでこだわった映像が息をのむほどの緊迫感を漂わせつつ、映画は秀吉に翻弄された利休の運命を俯瞰する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

だが利休とて人の子、生まれついて至高の芸術家だったわけではなく、若き頃は遊び人から転じて恋に身を焦がす情熱家。感情を自制し、どこか人を寄せ付けないカリスマ性を備えた茶人となった後年よりも、才気あふれる与四郎のほうがよほど人間的な魅力に輝いている。市川海老蔵が生き生きと演じる朝鮮女性への叶わぬ思いに命を賭ける青年時代こそ、利休の自由な発想の本質だったのではとこの作品は問いかける。

オススメ度 ★★★

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