こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

共喰い

otello2013-09-09

共喰い

監督 青山真治
出演 菅田将暉/木下美咲/篠原友希子/光石研/田中裕子
ナンバー 221
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

快感の極致に達すると暴力の衝動を抑えきれなくなり、思わず相手を殴り首を絞めてしまう。そんな性的嗜好の父親を持つ息子は、自分にも同じ血が流れているのを自覚し、嫌悪し、苦悩する。倦怠、諦観、絶望……人間が吐き出すあらゆる負のエネルギーが堆積し腐臭を放つ川辺の街、映画はそこから抜け出せず悶々とする高校生の日常を通じ、生きるとは業を背負うことだと訴える。好きな女といるのに楽しくない、セックスしても愛はない、何より息苦しくなる環境で、己の本性を知ってしまった主人公の表情が切なく哀しい。

父・円とその愛人・琴子の3人で暮らす遠馬は、幼馴染の千種とのセックスに自信が持てず、産みの母・仁子に愚痴をこぼす日々。ある日、千種の首を絞めてしまい嫌われる。一方で琴子は妊娠したと遠馬に告げ、円の元から逃げ出だそうとする。

女たちは、殴られ首を絞められる恐怖に死を覚悟したはず。しかし、なぜか彼女たちは円となかなか別れられず、仁子も琴子も妊娠するまでは黙って耐えている。それほどまでに円が魅力的なのか、映像からはうかがい知れない。ここで描かれるセックスには尊敬や慈しみはまったくなく、裸の肉体を重ね、交合し、射精するばかり。千種に至っては、遠馬を受け入れても痛みを感じるのみ。あまりにも身勝手なセックスを女たちに強要し繰り返す父子に共感できる要素はないが、ただ性欲を発散させるために生きている2人の破滅的な姿には滑稽さが漂う。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

むしろ円と遠馬を受け入れる女たちの無防備こそが、この父子の暴走を許しているのではないか。そして琴子のささやかな仕打ちと、仁子の大いなる仕返し。結局、遠馬もまた町から出られない。千種も遠馬との腐れ縁を断ち切れず、仁子のような道を歩んでいく。元号が変わっても彼らは変わらない、貧しさ以上の不毛に人生の真実が凝縮されていた。

オススメ度 ★★*

↓公式サイト↓