こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

さよなら、アドルフ

otello2013-10-30

さよなら、アドルフ LORE

監督 ケイト・ショートランド
出演 ザスキア・ローゼンダール/カイ・マリーナ/ネーレ・トゥレプス/ウルシーナ・ラルディ
ナンバー 263
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

世界を支配していた常識が一夜にして崩れ去る。幼いころから教えられた秩序が知らぬ間に逆転している。信じられない事実、受け入れがたい現実、そしてたどり着いた真実。物語はひとりの少女と4人の弟妹が、敗戦とともに邸宅を追われ、安住の地に避難する旅に密着する。社会の変化に戸惑い、食料も移動手段も情報も乏しく身分さえ失った状態で、敵意と猜疑心に満ちた荒野を進むヒロイン。ところが、幾多の苦難を乗り越える原動力となったのは叩き込まれた思想、手助けをしてくれたのはかつて憎んだ人種という皮肉。映画は、懸命に生き抜こうとする彼女の姿を通じて、価値観の崩壊とそれに打ち勝つ理性を描く。

連合国軍に降伏したドイツ、SS高級将校の父は逮捕され、母は当局に出頭、14歳の長女・ローレは4人弟妹の世話をしながら900キロ先の祖母の家を目指す。金品を食料と交換しながら歩くうち、検問でトマスと名乗るユダヤ人に助けられる。

忠誠を誓ったヒトラーは自殺した。守ってくれる両親も戻ってこない。特権階級だった彼女たちに同情を寄せる者はいない。心細いはずのローレは、しかし、赤ちゃんを含む弟妹のために食料を調達しなければならない。特に、気力喪失した母の胸に赤ちゃんをしゃぶりつかせたり、他の母にもらい乳をするなど、途方に暮れる間もなくローレは気丈に振る舞う。そんな彼女が壁新聞でホロコーストを知り、父が関わっていたと気づいた時、初めて感情をあらわにする。それは国家と大人の裏切りに対する怒りと悲しみ。さらにトマスの不器用な優しさに触れ彼女は混乱していくが、長女としての責任感だけは持ち続けるあたり、生真面目なドイツ人の矜持を感じさせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、ハンブルグの祖母の屋敷に到着するが、そこは敗戦の荒廃から距離を置いた別天地のよう。祖母はいまだにナチを信奉しローレに服従と規律を強いる。だが、もはやローレは自分が何者かを理解している。誤った過去の否定から未来は始まることを、彼女の力強い視線が象徴していた。

オススメ度 ★★★

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