こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

偽りなき者

otello2013-02-21

偽りなき者 Jagten

監督 トマス・ビンターベア
出演 マッツ・ミケルセン/トマス・ボー・ラーセン/アニカ・ビタコプ/ラセ・フォーゲルストラム/スーセ・ウォルド
ナンバー 37
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

まったく身に覚えのないことで平凡だか平穏な暮らしが音を立てて崩れる。何が原因なのか分からないまま、噂は独り歩きし、周囲の敵意がむき出しになる。いつしか主人公は変質者のレッテルを貼られコミュニティから排斥されていく。物語は幼女の小さな嘘が大人たちに大きな波紋を起こし、ひとりの男を破滅させていく過程を追う。「子供は嘘をつかない」という妄信と過剰反応、彼は街の人々にとって退屈な日常にもたらされたスケープゴートとなる。人の胸の奥に潜む“はけ口”を求める気持ちが一斉に同じ方向を向いたときの恐ろしさがリアルだ。

幼稚園職員のルーカスは子供たちの人気者。ある日、親友・テオの娘・クララの贈り物を断ったため、クララは傷つき、園長に“性器を見せられた”と口にする。事態を重く見た園長はルーカスに自宅待機を命じ、保護者に公表する。

はじめに結論ありきと思われるクララへの誘導尋問、まだうまく話せない彼女に対して言葉巧みにルーカスの犯罪を印象付ける。さらに「嘘だった」とクララが母親に告白しても、母親は相手にしない。一方で、いくら無実を訴えても誰も聞く耳を持ってくれないルーカスの苛立ちと苦悩。恋人にさえ疑われるなか、別居中だった息子が味方になって彼を支えている。事件扱いとなり話が街中に広がると救いの手を差し伸べる友人たちも現れる。すべてが敵ではない、しかし“世の中の空気”の圧倒的な力の前で無力感に打ちひしがれる姿は、“被害者”の証言のみが証拠として採用される日本の「痴漢裁判」を思い出させ、暗鬱な気分にさせられる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

園長をはじめ職員や住人達は元々善良な人々、だがその善良さを維持するために抑え込んでいた残酷さについた火が一気に広がる様子は、熱狂こそないが、中世の魔女狩りのよう。そして、折れそうな心に鞭打って矜持を守るルーカスの行動に予定調和的な大団円を予想させながら、もうひとひねり加える。この後味の悪さが人間の真実を衝いていた。

オススメ度 ★★★*

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