こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ

otello2013-12-23

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
ONLY LOVERS LEFT ALIVE

監督 ジム・ジャームッシュ
出演 トム・ヒドルストン/ティルダ・スウィントン/ミア・ワシコウスカ /ジョン・ハート
ナンバー 303
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

人間の血を飲んでいる限り死なず老いもしない者にとって、人生の意味とは何なのか。極上の血液をカクテルグラスで呷り恍惚感に浸る彼らは、のどを下り胃の腑に落ちる瞬間だけ命の実感を覚えることができる。だが、それ以外は人目と日光を避け息をひそめていなければならない。そして、歴史的な名作を生みながらも影武者でしかないわが身の不運を呪うのみ。そこにあるのは、かつて人々から怪物として弾圧され闇の世界に追いやられた種族の圧倒的な孤独。映画はうまく社会に溶け込んだ現代のバンパイアが抱える葛藤を退廃的な映像で見せる。アートに身をゆだね自分自身と対話でしか気の遠くなる時間を消費しきれない、そんな主人公の過ごし方はむしろうらやましくもある。

アングラ界の伝説的ミュージシャン・アダムの元に離れて暮らす妻のイヴが会いに来る。ふたりが愛を確認したのも束の間、トラブルメーカーのエヴァがやってきて、アダムの世話をしている便利屋の血を吸ってしまう。

人間をゾンビと呼ぶのは、我らこそが“生きる”に値するという思い上がりがあるからだろう。人間よりも高等な反面人間に依存し、死なないが子孫を残せない、優越感と劣等感が入り混じったバンパイアの思い。木製の銃弾と荒廃した街は死を渇望する彼らのメタファーとなり、甘美な誘惑と化して彼らを望まぬ未来にいざなっていく。その過程で起きる、自制するアダムとイヴ、欲望のままに行動するエヴァの相克は、人間に敵視されていたころがバンパイアにとっての黄金時代ではなかったかと思わせる。優美でしっとりとしたイメージの連続が希望なくして存在し続ける彼らの苦悩を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

滅びゆく運命あるのはわかっている、それでも生存本能には抗えず人間の血を求めてしまうアダムとイヴ。もはや永遠の命は彼らにとって受難でしかない。大きく見開いた目で犬歯をむき出しにするイヴの至福の表情に、不老不死を与えられた者の喜びと絶望が凝縮されていた。

オススメ度 ★★★

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