こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

奇跡の2000マイル

otello2015-06-19

奇跡の2000マイル TRACKS

監督 ジョン・カラン
出演 ミア・ワシコウスカ/アダム・ドライバー/ローリー・ミンツマ/ライナー・ボック
ナンバー 142
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

“どこにいても居場所がない”と感じるのは、自分を理解してくれる人間、信頼できる人間が身近な周囲にいないから。本人もまた積極的に他人にはかかわろうとせず、濃密な人間関係を避けている。カメラはそんな孤独なヒロインが乾燥地帯を横断する姿を描く。見渡す限り灌木とむき出しの岩、赤土や砂ばかりの世界、強烈な日差しが体力を奪っていく。夜は満天の星の下、たき火のそばで眠る。道中彼女は何度も自身に問うたはず、“なぜ私はここにいる、なぜこんなことをしている?”かと。時に挫折しそうになり時に興味本位でシャッターを切る人々に辟易しながらも、ひたすら西の彼方の海を目指す過程で彼女が探していたものは、肉体的にも精神的にもぎりぎりまで追い込んだ果てに見えてくる、「生きる意味」なのだ。

都市の生活に馴染めないロビンはオーストラリア大陸中央部からインド洋まで歩き通す計画を立て、ラクダ牧場で調教を学びつつチャンスをうかがう。8か月後、4頭のラクダを手に入れ、愛犬と共に出発する。

うんざりするほどの単調な毎日、昼間は歩き続け日が落ちると野営するだけ。途中、予想された砂嵐や水不足、野生のラクダやアボリジニには遭遇するが、命の危機を覚えるような天候の激変や獰猛な野獣に襲われたりはしない。過酷な道のりではあるが、スリル満点の冒険というよりは、有り余る時間の中で繰り返される自己との対話が旅の目的。人を寄せ付けない自然は確かにロビンに似たところがある。それに寄り添うことで彼女はアイデンティティの断片を拾い集めているのだろう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

映画はあくまで感情を抑え気味に、彼女の進んだ行程に同行する。フィルムに収められた壮大な風景は、まさしくナショナルジオグラフィック誌の動画版。空調の効いた室内で見る映像では彼女の体験した暑さや渇きはうまく伝わらない。それでも彼女が目にした、荒涼の中に存在する人の手の干渉を拒んだ美しさは、リアルに再現されていた。

オススメ度 ★★★

↓公式サイト↓