こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古

otello2014-08-06

ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古
Peter Brook: The Tightrope

監督 サイモン・ブルック
出演 ピーター・ブルック/笈田ヨシ/ヘイリー・カーミッシェル/マルチェロ・マーニ/シャンタラ・シバリンガッパ
ナンバー 178
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

絨毯の上に張られたロープの上を歩く俳優たち。ある者は軽やかにジャンプし、ある者は腰が引けそうになりながら恐る恐る歩を進め、ある者は落ちたロープに這い上がろうとする。大切なのは爪先から足の裏全体に神経を張り巡らせ、縄目を感じ取り、揺れを制御し、上半身でバランスを取ること。実際にはロープはない、だがそれができて初めて、観客には俳優がほんとうに綱渡りをしているかに見える。確かに俳優の演技に過ぎないが、虚構だからこそ心に映るのは綱渡りをする人間が抱く感情。恐怖を克服するための平常心と油断や慢心を戒める緊張、それらを体現した後に真実が現れる。映画は世界的演出家、ピーター・ブルックのワークショップを通じ、演劇の真髄に迫る。

床にカーペットを敷いただけの稽古場に世界中から集まった俳優たちはブルックの演劇理論に耳を傾け、実践する。「演劇とは真実と向き合う勇気」、俳優たちは自分たちの持つ想像力を総動員してブルックの言葉を理解しようとする。

鳥の群れがほぼ同時に飛ぶ方向を変えられるのは、集団の意志があるからと話すブルック。シェアマインドという訓練では8人の俳優たちが1から順に番号を発し、2人以上が同じ番号を口にするとやり直す。8人が意識を統一しなければうまくいかない。次の番号を誰が言うかわからないなか、俳優たちは思い切って声にする。こんな芸当が人間に可能なのか疑問だったが、慣れてくると次第に失敗が少なくなっていく。ステージ上の俳優同士の阿吽の呼吸はこうして生み出されるのかと、驚きと感心を禁じ得なかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ブルックの説法はさらに深く抽象的になっていく。俳優たちは砂時計の砂を注視するごとく集中し意味を解釈する。もはや禅問答、“リアリティとは何か”の問いに己との対話を繰り返し答えを探す。そこはきっとブルック自身にも未到達の境地なのだろう、それゆえに探求する気持ちを忘れるなと後輩たちに伝えているのだ。

オススメ度 ★★★

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