こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

テノール! 人生はハーモニー

配達先で挑発に乗せられたら、スカウトされた。まったく知らなかった世界が目の前に広がっていく。だがそれは家族や地元の友人など、ぬるま湯のような人間関係からの卒業でもある。物語は、歌唱の才能を見出された若者がチャンスをつかもうと奮闘する姿を描く。労働者地区で生まれ育った彼にとって、社会の不公平に対する怒りをぶちまけることこそが生きる証。なのに貴族趣味と思われても仕方のない芸術の魅力に憑りつかれ、どっぷりとはまっていく。ところが、音楽と言えばラップが定番の環境ではオペラを学んでいるとは言い出せない。親代わりの兄や恋人にも黙ってレッスンに通ううちに、彼の日常は少しずつきしみだす。新しい道に進むには古い何かを捨てなければならない主人公の、葛藤と逡巡がリアルに再現されていた。

デリバリー先のオペラ教室で発声したアントワーヌは講師のマリーに入学を勧められる。特例として認められるが、会計学校の学費を出してくれている兄には言い出せずにいると、兄が拘留される。

パリ郊外の集合住宅に住み、その日暮らしの境遇からなんとか這い上がろうとしているアントワーヌとその同類たちにとって、オペラは階級の敵。そんな彼らの苦労とは無縁のオペラを愛好する人々の暮らしが印象的だ。マリーは市内の高級アパルトマンで独居、級友のジョセフィーヌに至っては自宅に劇場がある豪邸のお嬢様という正真正銘の貴族。アントワーヌは卑屈にならないよう努めているが、一方でオペラの世界で成功すればこちら側に人間になれると計算している。そのあたり、夢に向かって一直線に走れないアントワーヌの心境は複雑。劣悪な生活から自分だけ抜け出していいのかという若者らしい正義感が好ましい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、オペラ初心者のアントワーヌがイタリア語の歌を朗唱したり、ろくに練習もせずにレッスンに臨んだり、オーディションを受けたりと、急展開の連続はディテールを端折りすぎ。いかに彼が先天的な美声でもきちんとした発声法を身に着ける努力をすべきだ。

監督     クロード・ジディ・Jr.
出演     ミシェル・ラロック/MB14/ギョーム・デュエム/ マエバ・エル・アロウシ/マリー・オペール/ルイ・ド・ラビ二エール/ロベルト・アラーニャ
ナンバー     107
オススメ度     ★★*


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