こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天才スピヴェット

otello2014-09-20

天才スピヴェット THE YOUNG AND PRODIGIOUS T.S. SPIVET

監督 ジャン=ピエール・ジュネ
出演 カイル・キャトレット/ヘレナ・ボナム=カーター/ジュディ・デイヴィス/カラム・キース・レニー/ニアム・ウィルソン
ナンバー 217
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

カウボーイを気取る父は無関心、昆虫標本に夢中の母は構ってくれない、女優志望の姉は話が通じない。双子の弟が死んでから家族の中に居場所を失った少年は、唯一自分の才能を認めてくれた博物館を目指して大陸横断の列車に乗る。それは天才的頭脳を持つせいで周囲に馴染めない孤独をかみしめる旅でもあり、新たな世界へ踏み出す通過儀礼でもある。物語は物理学に革命を起こした主人公が、人生で本当に大切なものを発見する過程を描く。いくら頭が良くても罪の意識ゆえ見落としてしまった真実、想像力を駆使して逃避するしかない現実。深く色づいた大地と山々、コントラストの濃い夕日、長い鉄橋を渡る貨物列車……ファンタジックに彩られた米国の原風景を思わせる詩情豊かな映像がイマジネーションを刺激する。

山間の牧場で暮らすTSの元に、永久機関の発明に対し賞を授与するのでワシントンDCに招待する旨の電話が来る。一度は断るが、置手紙を残して早朝の列車に飛び乗り、東に向かう途中様々な人と出会う。

当然無賃乗車、奇抜なアイデアで列車を止め、警備員を振り切って貨車に隠れ、移送中のキャンピングカーに身をひそめるTS。道中、同じ境遇の老人からつじつまの合わない寓話を聞かされ、根はやさしそうな警官に追われ、トレーラーの助手席に乗せてもらう。様々な人々との接触にTSの好奇心はそそられるが、知能ばかり発達して精神も身体も未熟な彼はうまく消化しきれない。彼の“知識”と“体験”の微妙な違いに戸惑う気持ちが、強烈な色彩に象徴される。繊細で敏感なTSの感情が見事に投影されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

スミソニアン博物館にたどり着いたTSは、一見理解を示す責任者のジブセンが、実は“10歳のダ・ヴィンチ”として利用しようとしているのに気づき失望する。その時になって初めて知る大いなる思い。見えていなかったのではない、見ようとしていなかっただけ。わからなかったのではない、心を開いていなかっただけ。子供を愛さない親なんていない、そんな当たり前のことをこの作品は再認識させてくれる。

オススメ度 ★★★*

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