こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

めぐり逢わせのお弁当

otello2014-10-14

めぐり逢わせのお弁当

監督 リテーシュ・バトラ
出演 イルファーン・カーン/ニムラト・カウル/ナワーズッディーン・シッディーキー
ナンバー 240
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

数字と計算を生業にしてきた孤独な男と、夫に浮気され充たされぬ毎日に苦悩する女。ふとした偶然がふたりを結び付け、お互いになくてはならない存在になっていく。物語は、弁当を媒介にして主人公と作り主の主婦が文通するうちに、人生に一番大切なものに気づいていく姿を描く。おいしい食事は固い心をほぐしていく、他人と分かち合えば喜びは2倍になり悲しみは半分になる、そして何より、己の思いが受け止められて相手にも必要とされている時こそが生きている実感を得られるとこの映画は教えてくれる。自転車で弁当箱を集め列車で運び再び自転車に積みオフィスに配達される、恐ろしく人手がかかるデリバリーシステムが存続しているムンバイの、人間を効率で測らない懐の深さを感じた。

帳簿係として長年働くサージャンのデスクに、イラが作った弁当が誤って届けられる。あまりの美味にサージャンは完食し、イラは翌日の弁当に手書きのメモを添えるが、返ってきたのはそっけない返事だった。

早期退職を目前にしているサージャンは後任者とも打ち解けず、当然引き継ぎもしない。妻の死後、誰とも交流しようとせず、ただただ平穏な日々を送ることを心がけている。しかし、彼自身は変わっていないつもりでいても世の中は確実に変化している。昔は空いていた通勤電車も今はいつも満員になった。さらに、祖父と同じ体臭と若者に席を譲られた事実が彼に“老い”の残酷な現実を突きつける。結果として、自分に会いたがっているイラを幻滅させるのではないかという恐れが彼の脳裏をよぎる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて後輩の後見人を務めるまでに人嫌いを改善させたサージャンだが、黙ってイラとの連絡を絶つ。弁当配達システムにおける誤配の確率は600万分の1という。その奇跡に思い切って身を委ねれば運命は好転する。“間違った列車に乗っても正しい場所に導かれる”、イラの言葉がふたりの未来を象徴していた。

オススメ度 ★★★

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