こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アリスのままで

otello2015-03-21

アリスのままで STILL ALICE

監督 リチャード・グラッツァー/ウォッシュ・ウェストモアランド
出演 ジュリアン・ムーア/アレック・ボールドウィン/クリスティン・スチュワート/ケイト・ボスワース/ハンター・パリッシュ
ナンバー 61
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

最初は言葉が出てこないだけだった。しかし、通いなれたキャンパスで迷子になり、人の名前を覚えられなくなると、集中力も衰えてまう。頭の中で大切なものが壊れていく、そして、回復することはなく自我が失われていく。“ガンなら恥ずかしくない”と嘆く彼女の気持ちが切実だ。物語は不治の遺伝病に侵されたヒロインが、夫や子供に見守られながらも徐々に病魔に蝕まれていく姿を描く。少しでも進行を遅らせようと脳トレに励みつつ、尊厳を守るための予防措置も怠らない。己の運命に対する戸惑いと不安、暗い未来への怒りと絶望、やがてそうした感情すら薄れていく恐怖。人が人でなくなっていくプロセスをジュリアン・ムーアが繊細な感性で演じ切る。

夫と3人の子に恵まれた言語学者・アリスは、50歳を迎えた直後若年性アルツハイマー症と診断される。家族に告げ、ビデオメッセージで覚悟を決めるが、末娘のリディアが心配で仕方がない。

高学歴一家の中、ひとり演劇にはまって自由に生きるリディアにはつい説教口調になっていたアリス。ところが、いまや彼女の芝居を見ても、わが娘と分からなくなっている。調子のいい時はスピーチもこなせるが、記憶だけでなく意識も飛ぶときもある。アリスの視点でもあるカメラは、むしろその過程を家族の再生ととらえる。夫の気遣いは変わらない、独立した長女も長男もよく会いに来てくれる。いちばん疎遠だったリディアが、自分こそがアリスの心労の種だったと気づき、生き方を省みる。それらを見聞きし体感するアリスの主観は、病状が軽微なうちは正常な反応を示すが、時と共に場違いな言動を繰り返し、ついには目の前の出来事が理解できなくなる。本人はもはや何も感じていない、だがそれは周囲が思うほどの悲劇なのだろうかと映画は問いかける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

あまりにも淡々とした、認識の主体がフェイドアウトしていく感覚は、人格消失の悲しみである一方、生の苦悩や死の苦痛から人間を解放する天の配剤のようにも思える。それでも、思い出は消えても愛したぬくもりはきっと残っているはず、そう信じさせてくれる作品だった。

オススメ度 ★★★★

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