バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
BIRDMAN OR (THE UNEXPECTED VIRTUE OF IGNORANCE)
監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演 マイケル・キートン/ザック・ガリフィアナキス/ エドワード・ノートン/アンドレア・ライズボロー/エイミー・ライアン/エマ・ストーン/ナオミ・ワッツ
ナンバー 85
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
“お前はこんなところにいるべき男ではない”と、もう一人の自分がヴィジョンを見せる。スーパーヒーローを演じていた時代は毎日がもっと輝いていた。今こそあの名声を取り戻せとそれは囁く。ところが目の前には難問が山積し、思い通りにいかないことばかり起こり、些事に追われストレスがたまる。物語はかつての映画スターが演劇で再起を図る姿を描く。演技を志した原点に回帰したはずなのに胸によぎるのは安っぽいプライド、現実と妄想が入り乱れる中で彼は本当に目指していたものに気づいていく。主観と客観だけでなく数人の登場人物の視点と思惑が混在し凝縮された2時間近いワンショット風の映像は、まさしく人間の感情そのもの。苛立ちと焦り、怒りと後悔、さらには愛と人生にまで言及し、失敗すると1から撮り直しの緊張感はぎりぎりまで追い詰められた主人公の心理を体感させてくれる。
90年代、映画「バードマン」の主演を務めたリーガンは、ブロードウェイから復活を目指すべく準備に余念がない。だが、セリフ合わせ中に共演者が大けが、代役のマイクは鼻持ちならない男で勝手にセリフを改変していく。
リーガンの付け人を務める娘・サムは元ジャンキーで独特の世界観を持っている。彼女にあまり愛情を注いでやれなかったリーガンは負い目を感じ、サムもまたリーガンに対し父娘らしくない距離感で接している。ある時、サムが過去の栄光を忘れられないリーガンに辛辣な言葉を投げつける。夢を捨てきれないリーガンの耳は痛い。いまや天命を知り耳順を迎える年齢だろう、迷いもがき続け醜態をさらしても前に進もうとするリーガンの背中に、思わず「負けるな!」と声をかけたくなる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがて初日を迎えた舞台はリーガンの“ある決意”が辛口批評家に絶賛され、彼は新たなステージに進む。立ち止まっているよりは歩き出せ、障害があれば乗り越えていけ。地道な努力と真摯な態度を持続できれば予期ぜぬタイミングで運命は開けていく、そんな勇気と希望をもらえる作品だった。
オススメ度 ★★★