こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ルノワール 陽だまりの裸婦

otello2013-10-06

ルノワール 陽だまりの裸婦 Renoir

監督 ジル・ブルドス
出演 ミシェル・ブーケ/クリスタ・テレ/バンサン・ロティエ/トマ・ドレ
ナンバー 245
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

降り注ぐ陽光、風にそよぐ木々や草原、小川のせせらぎ・・・。自然と気候に恵まれた南仏に居を構え、病気と闘いながら絵筆を操る老画家。若さの輝きに満ちた娘は彼の意欲を刺激し、体力の衰えを忘れさせてキャンバスに向かわせる。尻、胸、背中、顔の輪郭、曲線だけで素描された彼女の裸像は豊かなイメージを喚起し、人生の喜びを謳歌するよう。映画は、印象派の大家・ルノワールと彼の最晩年のモデルとなった女、そして息子たちとの関係をスケッチする。もはや情熱を発散させる年齢ではない、黙々と絵具を塗り、目の前の風景を絵筆一本で幸せの魔法がかかった世界に変貌させていく過程は、芸術家というより職人の技を味わう気分だ。

ルノワールの邸宅を訪れたアンドレはモデルに雇われ、彼のアトリエに出入りし始める。ルノワールはリウマチに侵され手足が不自由だったが、それでも指に絵筆を巻き付けてアンドレのヌードを描き続ける。

第一次大戦中とは思えないほどのどかな日常、そこに負傷して除隊になった二男のジャンが帰ってくる。ルノワールの創作に付き合い毎日アンドレの裸を見ているうちに、当然ジャンは彼女に魅かれていく。しかし、彼女は父のモデル、今まで父がモデルに手をだし母もそのうちの一人だと知っているジャンは複雑な心境だっただろう。やがてジャンは戦争が終わったら映画作りを目指すとアンドレに宣言、彼女を女優として出演させると約束する。まだ映画は見世物であって、アートと認められておらず、美術や音楽より格下に扱われていた時代、父から受け継いだ才能を別の表現方法で開花させるのは先の話だが、アンドレの豊満な肉体と強烈なまなざしが決意させたことは想像に難くない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、この作品は極めて散文的で、ヤマもなければオチもないエピソードが淡々と語られるのみ。自転車に乗ったアンドレの主観で始まるのだから、彼女が見聞した“ルノワール父子の真実”のようなアレンジがあってもよかったはずだ。美しい映像が紡ぎだす至福のシーンの数々が、物語に昇華されていないのは残念だった。

オススメ度 ★★*

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