こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

リチャード・ジュエル

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肥大した肉体と緩慢な動作は他人に間抜けな印象を与えている。だが繊細な心配りができる上、誇り高き正義感は本職の警察官にも負けていない。物語は、人々を救った英雄がメディアと権力によってテロリストに仕立て上げられていく過程を描く。受け答えこそ少しトロいが、無類のお人よし。民間警備員にすぎないのに自ら法執行官を名乗り、自分に疑いをかける官憲の機嫌を取ろうとする。もっと怒るべきだろう。もっと悔しがるべきだろう。ところが、感情を露にする弁護士や母とは裏腹に、騙し討ちのような任意聴取やプライバシーを無視した過熱報道にも、事態をキチンと把握しているのかいないかわからない鷹揚な態度を崩さない。そんな主人公は、いつしか艱難辛苦を乗り越えることが己に課された試練と受け取る聖人のごとき雰囲気をまとい、彼の魂は神々しいまでの輝きを放ち始める。

ライブ会場で不審なリュックを発見したリチャードは観客を避難させ被害を最小限にとどめる。しかし、FBIが彼を容疑者とみていると地元紙が報じ、リチャードは一転してメディアの餌食にされる。

確かに過去にはトラブルもあったが、それはリチャードが正義と良識を貫いた結果。銃器も多数所持している。FBIはなんとしても彼から自白を取ろうと欺瞞に満ちた罠を仕掛けてくる。さらに上昇志向の強い女記者の暴走が拍車をかける。手柄のためにはリチャードの人生など歯牙にもかけず、証拠など何もないのにリチャードを追い詰めていく、権力欲・出世欲に憑りつかれた薄汚れた人間の赤裸々な欲望がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

リチャードは旧知のワトソンに弁護を依頼するが、ワトソンの忠告にもかかわらずリチャードはFBIに協力的。墓穴を掘るような彼の言動をワトソンは怒鳴りつけたりもする。そしてワトソンを交えたFBIの尋問で初めて論理的な言葉を口にするリチャード。憧れていた法執行官からこれほどまでひどい辱めを受けてもじっと耐えている。あまりにも無垢なリチャードを抱きしめたワトソンの気持ちが深く理解できた。

監督  クリント・イーストウッド
出演  ポール・ウォルター・ハウザー/サム・ロックウェル/キャシー・ベイツ/ジョン・ハム/オリビア・ワイルド/ニナ・アリアンダ/イアン・ゴメス
ナンバー  10
オススメ度  ★★★★


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