こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

WAVES/ウェイブス

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厳格な父の言葉に従い自分を厳しく律してきた。学業でも部活でも常に勝者になれと言われ、それなりに結果を出してきた。家族やガールフレンドとの仲も良好だった。物語は順調な人生を歩んできた高校生兄妹の挫折と再生を描く。彼女が妊娠を伝えてきた。鎮痛剤で抑えてきた肩の痛みが耐えられなくなった。しかし、期待してくれている父には相談できない。気持ちを打ち明けられる友人もいない。中絶を拒んだ彼女と決裂すると少年は一気に壊れていく。360度回転する自動車内のショット、サイケデリックな色調が加えられた夕日の沈む海、流麗なカメラワークに収められたカヌーやマナティ。そして彼らの感情を代弁する歌の数々。設定やストーリーが陳腐でも、クールな映像とポップな音楽で斬新な映画が成立するとこの作品は証明した。

黒人の両親・妹と暮らすタイラーは大学の奨学金を得るために勉強とレスリングに精進する毎日。ところが試合で負けて大けがをした上、恋人のアレクシスとは怒りに任せてケンカしてしまう。

父の忠告通り、カネを稼ぎ地位を得て美しい妻をもらう勝ち組になるはずだった。もちろんその分の社会的責任も負えるような大人になる。なのに、輝いていた青春がわずかな時間で暗転する。どう対処していいかわからない。ドラックを吸ってクルマを走らせる。何もかも忘れたい。悪夢を見ているだけと思いたい。だが現実はどこまでも追いかけてくる。焦燥と絶望と後悔ばかりが募ってくる。逃げても無駄と知りつつも、なんとか先延ばしにしようとあがくタイラーの空しく哀しい抵抗が切ない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

人殺しの妹として心を閉ざしたエミリーは、学校で白人生徒のルークに声を掛けられ付き合うようになる。ルークはエミリーが抱える苦悩も人種の違いも問題にせず、彼女をひとりの人間と扱ってくれる。タイラーを止められたのに止めなかった己を責めるエミリーと、DVが原因で生き別れた父の最期を見届けようとするルーク。誰かを愛することで希望が生まれると彼らの行動は教えてくれる。

監督  トレイ・エドワード・シュルツ
出演  ケルヴィン・ハリソン・Jr/ルーカス・ヘッジズ/テイラー・ラッセル/アレクサ・デミー/レネー・エリス・ゴールズベリー/スターリング・K・ブラウン
ナンバー  107
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://www.phantom-film.com/waves-movie/