こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハニーボーイ

f:id:otello:20200810161315j:plain

くだらないジョークばかり飛ばし他人の話に聞く耳を持たない。短気で気に入らないことがあればすぐに機嫌を損ね時に暴力をふるう。ろくに仕事もできないくせにいっぱしのマネージャー気取りで、細かい言動に干渉してくる。物語は、そんな父親のトラウマから逃れようとする俳優の苦痛と苦悩を描く。子役のころはスタジオとモーテルの往復、自由に使える時間もカネもなかった。支配欲の強い父に逆らえず、勇気を振り絞って要望を口にしてもすげない返事しか返ってこない。こんな父親から逃げたいと思っているけれど、子供の力ではどうしようもない。絶望とあきらめ、でも少しだけ心休まるときもあった。最低のクズ男と虐待される少年、映画はうんざりするほどのしつこさで2人の関係を繰り返し、観客を不快の底に突き落としたまま、救いの手を差し伸べてはくれない。

撮影中に飲酒運転で交通事故を起こしたオーティスは療養所に入ってカウンセリングを受ける。思い出すのは12歳まで一緒にいた父・ジェームズとの暮らし。それはオーティスにとって記憶から消去したい過去だった。

社会の落伍者なのに強がりはやめず、周囲の人に毒づいてはトラブルを引き起こし自らを省みないジェームズが、一度だけオーティスに弱音を吐く。“息子に養ってもらっている俺の気持ちがわかるか” と口にするのだが、結局は自助努力を何もしない己の体たらくの裏返しでしかない。自分の不幸を誰かのせいにしなければ安いプライドを保てないジェームズの姿は、あらゆる負け犬たちの腐った根性を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジェームズに扮したシャイア・ラブーフが自身の経験をもとに脚本を書いたそうだ。あれほど嫌いだった父を演じる上で、彼はいったいどんな解釈をしたのだろうか。その過程で、子供の時は理解できなかった父の感情も、大人になった今なら共感できる部分があったはず。この作品自体は見ているのがつらくなるほど不愉快なエピソードの連続だが、それはまさにラブーフが閉じ込められていた少年時代なのだ。

監督  アルマ・ハレル
出演  ノア・ジュプ/ルーカス・ヘッジズ/シャイア・ラブーフ/FKAツイッグス
ナンバー  126
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/honeyboy/