もう遠い昔の話と記憶の底にしまっていた。誰にも話さず墓場まで持っていくつもりだった。だが、秘密を共有していた仲間が死んだとき、過去は突然現実となって彼女の前に立ちはだかる。物語は、英国原爆開発チームの資料整理係として働いていた女の愛と苦悩を描く。ロンドンにもコミュニズムの嵐が吹き荒れていた1930年代、初めてできた友人と愛した男はソ連のスパイだった。彼らとの仲が深まるにつれ後戻りできなくなった。それでも祖国は裏切れない。様々な脅迫や誘惑に身をさらしながらもひとりで悩むヒロインは、やがて不倫の恋に落ちてしまう。そして、自分の仕事が大量破壊兵器の開発だった知ったとき、彼女は信念に基づいた行動を取る。決して過ちを認めない老婆をジュディ・デンチが貫録たっぷりに演じる。
第二次大戦時の機密漏洩で逮捕されたジョーンは、捜査官から60年以上前のケンブリッジ大学時代の経歴について取り調べを受ける。成績抜群のジョーンはデイヴィス教授の研究室に採用される。
ソニアやレオとともにコミンテルンの会合に顔を出していたジョーンだったが、次第にレオから機密を盗み出せと要求されるようになる。共産主義に共感できないジョーンは利用されているだけと悟り、レオと絶縁するとともに教授と深い関係になる。このあたり、優秀な頭脳を持ちながらも確固たる思想を持っているわけではないジョーンの、“男に愛されてこそ女の幸せ” という価値観に押しつぶされそうになる姿が健気だ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ジョーンは息子に弁護を護頼む。ところが息子は初めて聞かされるジョーンの罪に怒りと戸惑いを隠せない。母親は売国奴だったのか、ずっと世間と家族を欺いてきたのか。それでもジョーンの尋問に立ち会ううちに、彼女の言い分にも一理あり、良心に基づいた行為だったと納得する。己の利益や名誉のためではない、市民の命が奪われることへの純粋な嫌悪感。最後まで謝罪や反省の言葉を口にしないジョーンの覚悟が、時代の荒波を生き抜いた女の力強さを象徴していた。
監督 トレバー・ナン
出演 ジュディ・デンチ/スティーブン・キャンベル・ムーア/ソフィー・クックソン/トム・ヒューズ/ベン・マイルズ/テレーザ・スルボーバ
ナンバー 83
オススメ度 ★★★★
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https://www.red-joan.jp/