こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

LETO -レト-

f:id:otello:20200730094946j:plain

ギターをかき鳴らしながら絶叫するバンド、ノリノリの曲に会場のボルテージは最高潮に達している。ところが、聴衆は座席に行儀よく座り、せいぜい体をゆすってリズムを合わせる程度。少しでも立ちあがろうとしたり手を振ったりするとたちまち係員が飛んできて注意される。物語は、まだ社会主義の威光がわずかに残っていた1980年代ソ連、ロックスターに見出された若者の恋と成功を追う。欧米のロックはなかなか聞く機会に恵まれない。オープンリールの録音機で再生した音源から歌詞を書き出してその意味を考える。それは紛れもない労働者階級の歌なのに当局は敵視している。一方、自分の言葉で表現しようとしても甘いポエムの風の詞しか浮かばない。そんな、西側のポップスに憧れる若者たちのちょっとぬるい懐かしの日々が名曲と共に再現される。

人気抜群のグループのボーカル・マイクは、パーティで知り合った若者・ヴィクトルの歌に才能を感じ、チャンスを与える。並行して、マイクの妻・ナターシャとヴィクトルはお互いに惹かれあっていく。

古臭いイデオロギーに支配された硬直した社会、若者たちは英米のロックで息抜きをしている。一応マイクのようなロックンローラーも誕生しているが、いくら熱狂的ファンがついても一般人並の報酬しか得られない。それでもヴィクトルに代表される次の世代を担う若者が育っている。ペレストロイカはもう数年先だけれど、確実に時代は変わりつつある。列車の中でおっさんがロッカーたちに因縁をつけるシーンは、自由を求める若者の気持ちはもう後戻りできないことを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、映画はヴィクトルの魂の叫びや強烈な上昇志向、恋愛や創作の苦悩にはフォーカスせず、散文的な構成に終始する。端正なモノクロイメージに時おり落書きを施した処理をしたり、当時の大ヒットナンバーを再録してみたり。映像と音楽は見事にコラボしていたが、ヴィクトルの成長とチャレンジ、挫折と再生といった青春の輝きや切なさとは無縁。もっとストリー性が欲しかった。

監督  キリル・セレブレンニコフ
出演  ユ・テオ/ローマ・ジヴィエ/イリーナ・ストラシェンバウム
ナンバー  119
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
http://leto-movie.jp/