こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

罪の声

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再生してはいけない秘密だった。首を突っ込んではいけない過去だった。だが、同じ境遇の人間がほかにもいると知って、彼は真実を探し始める。物語は、35年前に起きた未解決事件の当事者だった男が封印されていた事実を紐解いていく過程を描く。今もネット上に残る子供の声は明らかに己のもの。一度頭に巣食った疑問は消えず、関係者を当たるうちに少しずつ全体像が見えてくる。そしてたどり着いた伯父の謎。一方で時代を総括したい新聞記者も別ルートで事件の発掘にかかる。だれもが忘れようとしていた。今さらほじくり返されたくはない。関係者の思い口を開かせるのは当事者だからこその苦悩。命を失った者、人生を壊された者、幸運にも平和な暮らしを手に入れた主人公はどう責任を取るべきなのか。重苦しい演出が彼の心理を象徴する。

“ギン萬事件” への自らの関与に気づいた仕立職人の曽根は、犯人グループが会合に使っていた飲食店の板前から話を聞く。新聞記者の阿久津もこの事件の真相を追っていた。

穏やかな日常が根底から覆る。父や母も悪事に加担していたのか、消息を絶った伯父は何者だったのか。阿久津に同行した曽根は、仕手筋から暴力団までかかわったこの事件の全貌に触れるうちに、声を使われた2人の子供たちに興味を持つ。恵まれた自分と比べ、彼らは幸せになれたのだろうか。調べるほどに期待は裏切られ、曽根の心は重く沈んでいく。生きているのなら探し出し、もう脅える必要はないと教えてやりたい。そんな曽根のやさしさが、仕事として取材していた阿久津の意識も変えていく。打ち解けた2人が冗談を言い合うシーンが緊張をほぐしてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

事件の核心に迫った2人は、それぞれのキーパーソンを直撃する。そこで彼らが突き止めたのは70年代学生運動に加わった親世代が抱えている敗北のトラウマと権力への憎悪。彼らの感傷の犠牲になった子供が願いを叶えたのは救いだった。それにしても、警察がさじを投げた案件を、記者と素人で解明できるものなのか。。。

監督  土井裕泰
出演  小栗旬/星野源/松重豊/古舘寛治/市川実日子/火野正平/宇崎竜童/梶芽衣子
ナンバー  187
オススメ度  ★★★


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