こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

君の誕生日

f:id:otello:20201204141938j:plain

何をしていても気分が重い。だれがどんな言葉をかけてきても心に響かない。あの日から時が止まってしまった母は、悲しみに暮れる日々を送っている。物語は、最愛の息子に先立たれた家族の喪失感を描く。少しずつでも前に向かって歩き出したい父は幼い娘と笑顔を取り戻そうと努力している。だが母は沈み込んだままことあるごとに情緒が乱れ、父や娘に当たりちらしている。同じく子供を失った親たちや支援団体の呼びかけにも反応せず、あらゆる援助の申し出を拒絶する。一方で、事件の解決を引き延ばすかのような犠牲者遺族の頑なな態度が世間から非難を浴び始めているあたり、被害者であり続ける難しさが再現されていた。ひたすら冗長かつ陰鬱で息苦しい映像は彼女の胸中を代弁し、その閉塞感がスクリーン越しに客席まで伝染してくる作品だった。

帰国したジョンイルは妻・スンナムのアパートを訪ねるが門前払いされる。長男・スホの災厄のときにいなかったと責められたジョンイルは、娘のイェソルの面倒を見て贖罪の気持ちを表す。

街頭活動や墓参などで、スホはセウォル号事件で犠牲になったことが小出しにされる。スンナムは、スホの誕生会を開いて彼を悼みたいという遺族会の提案を拒否し、ひとりでスホの死を抱え込んでいる。スホの思い出に浸っている時間だけが安らぎ、でも我に返って不在に気づくとまた大声で泣きだしてしまう。そんな彼女をジョンイルは見守っている。スンナムの純粋すぎる思い、ジョンイルのやさしさ、イェソルの両親に対する気遣いといった微妙で繊細な心理の揺れが濃やかに表現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして迎えたスホの誕生日、わずかに冷静さを取り戻したスンナムも誕生会に出席している。頼もしかったスホ、楽しませてくれたスホ、責任感が強かったスホ、遠慮しらずの大食いだったスホ。出席者全員がスホを愛している。それを知ったスンナムがこわばった表情を解きほぐしていく過程は、人は死んでも、誰かの記憶の中にある限り生き続けていると訴えていた。

監督  イ・ジョンオン
出演  ソル・ギョング/チョン・ドヨン/キム・ボミン/ユン・チャニョン/キム・スジン/イ・ボンリョン
ナンバー  212
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://klockworx-asia.com/birthday/