こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒトラーに盗られたうさぎ

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住み慣れたおうちを離れるのは寂しかった。大好きなメイドとのお別れは悲しかった。大切にしていたうさぎの人形を置いていくのは嫌だった。でも、パパとママの深刻な表情を見ていると言う通りにするしかなかった。物語は、ナチスが台頭し始めた時代、迫害から逃れるために国外に脱出したユダヤ人一家の苦難をたどる。批評家の父は世の中の動きに敏感で、命は間一髪助かった。だが逃亡資金はすぐに底をつき、ホテル暮らしは行き詰る。仕事を求めて大都会に引っ越しても、待っていたのは食べものに事欠く生活と家賃の督促。そんな毎日でもヒロインの少女は幼い心で現実を受け止め、たくましく成長していく。歴史を鑑みるに父には先見の明があったのだが、生き延びられた幸運を “神の意思” などという常套句で総括しないあたりが洗練されていた。

1933年、ドイツ総選挙でナチス有利の情勢の中、9歳のアンナと兄のマックス、両親はベルリンからスイスに越境する。現地で親友もできたアンナだったが、父はパリに移る決意をアンナたちに伝える。

フランス語はまったくわからないアンナだが、地元の小学校に転入後猛勉強する。その間、クラスメートは彼女を異物として扱わず、アンナも特にいじめられたりせずとけ込んでいく。アンナの関心はもちろん家族、これからどうなるのか心配しながらも学用品代を節約し投げ銭拾いまでする。同時に、母と押し掛けた知人宅で食事にありついたり服をもらったりと、安いプライドにしがみつく父と違って何をすべきか学んでいく。カメラは彼らの日常を淡々ととらえ、ただ普通に生きていることのすばらしさを訴えていく。この間、抑制の効いた演出が彼女の繊細な心情をリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も、ベルリンに残してきた叔父の消息を知らされたり、学校の作文コンクールで優秀賞を得たりと、アンナは忙しい。そして決まったロンドン行き。時流の先を読み自らの意志で運命を切り開こうとする者だけが難局を乗り切れる。自分たちを守ってくれた父への感謝にあふれた作品だった。

監督  カロリーヌ・リンク
出演  リーバ・クリマロフスキ/オリバー・マスッチ/ カーラ・ジュリ/マリヌス・ホーマン/ウルスラ・べルナー/ユストゥス・フォン・ドーナニー/
ナンバー  211
オススメ度  ★★★


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