こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジョゼと虎と魚たち

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気が強くひねくれていて人の話を聞かない。言葉遣いは命令口調で見下したような態度をとる。およそ他人とのコミュニケーションを学ばず狭い世界で生きてきた女にとって、それは同情される悔しさから自らを守るために身に着けた鎧。物語は、車いす生活を送る女と、彼女の面倒を見るバイトを始めた男子大学生交流を描く。不自由な体のせいで夢は夢とあきらめていた彼女は、夢を追う彼がうらやましく腹立たしい。健常者の彼は、彼女の気持ちが理解できず、あきらめずにチャレンジしろと励ます。一緒に過ごす時間が増えるとお互いに好感を持つようになり、ふたりの関係は濃密になる。だが、距離が近づくほどに気づく、彼らを隔てる壁の高さ。なにものにも媚びないヒロインの心の裏にある哀しみが切なさを呼ぶ。

坂道を暴走する車いすを止めたのをきっかけに、ジョゼの世話係のバイトを始めた恒夫。ジョゼのわがままに振り回されながらも、精一杯生きようとする彼女に寄り添おうとする。

祖母のおかげでカネも身の回りの心配もなく暮らしてこられたジョゼは、恒夫と外出するまでは世間の人々を虎と呼び怖がっている。健常者のちょっとした言葉や仕種に敏感になり、自分なんか世の中の負担でしかないという負い目を感じ、それを悟られまいと恒夫に当たったりする。子供のころから傷つくことを恐れ、恐れるあまり過剰な予防線を張る。そんなジョゼの気持ちが、いまだ障碍者が生きづらい社会に対し警鐘を鳴らす。健常者が当たり前にできることが彼らにとってどれほど困難なのかが、ジョゼと恒夫の日常を通じてリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、恒夫が交通事故で大けが、予定していた留学が白紙になる。不自由な体になって初めて自分の言動がどれほどジョゼを傷つけていたかを知る恒夫。障碍者にとって、夢は希望ではなく失望しか生まない。そんな現実が痛いほど胸を締め付ける。ただ、大阪弁をしゃべるのはがさつなキャラ、標準語をしゃべるのは知的で繊細なキャラという露骨な色分けは不快だった。

監督  タムラコータロー
出演  中川大志/清原果耶/宮本侑芽/興津和幸
ナンバー  229
オススメ度  ★★*


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