こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

哀愁しんでれら

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実の母に捨てられたトラウマを抱えながらも誠実に生きてきた。自分のような経験をほかの子供たちにさせたくないと育児放棄する母親に正面から向き合ってきた。なのに、突然すべてを失い不幸のどん底に突き落とされる。物語は、そんなヒロインが一転して人もうらやむ幸運をつかみ新しい人生に踏み出す姿を追う。偶然出会った男は大金持ちの開業医。小2の娘はいるが妻はいない。意気投合したふたりはたちまち恋に落ち結ばれる。幸い娘もなついてくれる。あっという間にたどり着いた幸福の絶頂、だが彼女は父娘の本性を知るにつれ恐怖を覚え始めていく。息つく間もない展開の速さの裏で浮かび上がる、スペックに惹かれて結婚する浅はかさ。”足のサイズしか知らない相手との結婚” を疑う友人の言葉が、愛情は時間をかけて育てていくものだと訴える。

一日で祖父の入院・実家の火事・恋人の浮気を体験した小春は、踏切で倒れていた大悟を助ける。それを機にとんとん拍子に話は進み、小春は大悟の娘・ヒカリの母となる決意を固める。

夢のような甘ったるいラブストーリーは見ているのが恥ずかしくなるほど。小春も大悟もヒカリも今感じている最高の幸せを「我が世の春」とばかりに全身で発散させる。ところが実際に生活が始まると、専業主婦になった小春は家事と育児を押し付けられ、海辺の豪邸に暮らしていても少しずつ “こんなはずじゃなかった” 感に蝕まれていく。そして起きたヒカリのいじめ問題。まだ8歳なのに悪意の塊のようなヒカリを演じたCOCOの不気味なまなざしは、何者かに憑りつかれているようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

大悟が描く3人の肖像画には瞳がない。空白の目は魂の抜け殻のようで、形だけは夫婦親子なのに愛情が宿っていない小春たちをそのもの。さらに暴走するヒカリの振舞い。小さな嫉妬が原因とはいえ、ヒカリの心がなぜ歪んでしまったのか。小春への信頼がどうして揺らいだのか。なぜ見え透いた嘘を見抜けないのか。そのあたりにもう少し説得力があれば、衝撃的な結末を楽しめたのだが。

監督  渡部亮平
出演  土屋太鳳/田中圭/COCO/山田杏奈/銀粉蝶/石橋凌
ナンバー  23
オススメ度  ★★★


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