こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

騙し絵の牙

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手あかのついた企画はいらない。安定はしていてもジリ貧になるばかり。無理だと思えるプランにチャレンジすれば新しい地平が見えてくる。物語は、業績不振の出版社の休刊寸前のカルチャー誌の編集長が擁護派否定派多様な意見をかわしながら、部数を回復させていく過程を描く。過去の成功に胡坐をかいた紙面作りは時流に取り残される。大作家の原稿にエンピツを入れる編集者はもういない。取次ぎを介した流通も破綻寸前。いまだ20世紀のビジネスモデルにしがみつき、IT化・デジタル化に対応できない老舗出版社の現状と人間模様がリアルに再現されていた。そんな状況で主人公は次々と斬新なアイデアを実行に移し、逆境すらチャンスに変えていく。彼のフットワークの軽さは、行動こそが結果に結びつくと教えてくれる。社長のヘビースモーカーぶりがこの業界の旧態然を象徴していた。

新社長から売り上げ増を厳命された「トリニティ」編集長の速水は紙面刷新を宣言、大物作家に執筆してもらうために文芸誌を追い出された高野を引き抜く。さらに表紙モデル・咲にも連載を依頼する。

危機感の乏しい編集部員からはことごとく新企画を否定されるが、お構いなしに突っ走る速水。面の皮の厚さだけは誰にも負けず、口説き落としたい人物の前に直接出向く。失敗したらクビの強烈なプレッシャーと面白ければいいという速水の価値観が絶妙に混じり、困難な仕事ほど楽しいと思わせるあたりが素晴らしい。一方の高野も、つぶれかけた実家の本屋を手伝いつつ、幻の作家探しに没頭する。やるべきこと、成し遂げるべきことが明確な場合、そのハードルが高いほど人間は成長すると彼らの背中は訴えていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

社内の権力闘争における大逆転や、社長の新事業の全貌などさまざまな仕掛けが明らかにされる後半は、驚きの連続。実力を見込まれ即戦力で中途入社したものの確固たる後ろ盾のない速水のような社員にとって、身を守るためにどういう保険を掛けておくべきか。彼の権謀術数は模範的回答になっていた。

監督  吉田大八
出演  大泉洋/松岡茉優/宮沢氷魚/池田エライザ/斎藤工/中村倫也/リリー・フランキー/塚本晋也/國村隼/木村佳乃/小林聡美/佐藤浩市
ナンバー  225
オススメ度  ★★★★


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