こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ノマドランド

f:id:otello:20210329142007j:plain

「ホームレスではない、ハウスレス」。彼女は己の境遇をそう説明する。バンを運転しながら仕事を探して放浪する。寝るのも食事も荷台の中。カネはないけれど時間と自由は有り余っている。同じ境遇の者同士協力し合っても深くは干渉しない。物語は、夫の死をきっかけに車上生活者となった高齢者の日常を追う。家や家族は失ったけれど、特に寂しくはない。その日暮らしだけれど身の丈に合っているともいえる。米国西部の荒野を地平線まで貫く一本道をひたすらバンを走らせていると心が浄化されていく。明け方の空、奇岩だらけの乾燥地、緑深い森と小川、満天の星etc. 壮大な自然の中に身を置くと生きている実感がわき、生まれてきた意味が見えてくる。そんな、大都会の大量消費文明に背を向けた生き方は競争社会のむなしさを教えてくれる。

amazon配送センターで年末の仕事を終えたファーンは、車上生活者向けのキャンプに移動、生きるためのノウハウを学ぶ。そこで知り合った人々と友情を結ぶが、次の職を求めて移動する。

キャンプの主催者はヒッピーの流れを汲んでいるのだろう、来る者は拒まず去る者は追わず、だれにも優しくゆる~い人間関係を提唱する。過去を詮索されたくない人々にとっては居心地がいい。バンの修理費用がかさんだりもするが何とかなるぐらいの伝手はある。家を失った貧困層の人々が仕方なく車上生活しているのかと思っていたが、彼らはむしろ好んで放浪している。愛とか貯金とか血縁とか、そういったしがらみがなくなれば人間はいかに楽になるか。ファーンの旅に同行しているうちに、豊かな人生とは何かを考えさせられる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ヤマもなければオチもない、カメラは淡々とファーンの一年に寄り添うだけ。ノマドライフを称賛もしないし、格差社会を非難するわけでもない。それでも、広大な大地に拠点を置き、働き、食べ、眠るという根源的な行為に身を浸す充足感は十分に伝わってくる。別れ際に「さよならではなく、またどこかで」と言う彼らのカッコよさを見習いたくなった。

監督  クロエ・ジャオ
出演  フランシス・マクドーマンド/デビッド・ストラザーン/リンダ・メイ/スワンキー/ボブ・ウェルズ
ナンバー  51
オススメ度  ★★★★


↓公式サイト↓
https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html