こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブータン 山の教室

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目の前の “やるべきこと” をおろそかにしている男は、今の境遇に強烈な違和感を覚えている。こんなところでくすぶっているはずじゃなかった、海外で活躍しているはずだった。そんな思いに苛まれながら彼は子供たちの前に立つ。物語は、都会から遠く離れた山奥の村に教師として派遣された青年が、少しずつ己の居場所を見つけていく姿を描く。不本意なのを隠さない。村人の好意にこたえようとはしない。年長の村長にも不遜な態度を崩さない。夢を追っている自分に酔い、まったく本気になろうとしない主人公は、どこにでもいるタイプ。特に信心深いわけではない。欧米風の消費生活も謳歌している。ネットのおかげで流行にもついていける。主人公のライフスタイルを見ていると、幸福度世界一の国でも若者の気質は似たようなものだと妙に安心した。

道路も電気も通っていない村への辞令が出たウゲンは渋々バスに乗る。村人が最寄りの集落まで出迎えてくれるが、村はさらにそこから徒歩で6日、ウゲンはすっかりやる気をなくす。

首都で暮らし、夜型のチャラい生活が身についているウゲン。オーストラリアで歌手になるつもりでいる。着任早々に村長に辞退を申し出るが、村長たちも引き止めたりはしない。それでも翌日教室に顔を出すと、目を輝かせた児童たちがウゲンを待っている。特に、ペンザムという少女のキラキラと光る瞳と羽根を広げた蝶のような笑顔は、もはや天使の領域。今まで同工異曲の映画は何本も作られてきたが、ヒマラヤ山麓という桁違いの辺境と、ペンザムの存在は、この作品を一段と輝かせていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

児童に国語算数英語などを教えるうちにやりがいを感じ出したウゲンは、教材やギターを取り寄せて授業を楽しいモノに変えていく。児童たちも純真でウゲンになついている。一方で、ウゲンは丘の上で歌う娘と心を通わせたりする。村の人々が訛りなくウゲンと会話するのに不自然さを感じたりもするが、自然豊かな天空の秘境で繰り広げられるおとぎ話の前では、どうでもよくなった。

監督  パオ・チョニン・ドルジ
出演  シェラップ・ドルジ/ウゲン・ノルブ・へンドゥップ/ケルドン・ハモ・グルン/ペム・ザム
ナンバー  15
オススメ度  ★★★*


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