こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アイダよ、何処へ?

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敵が攻めてくる。避難民が押し寄せてくる。一応、自分の安全は保障されているがIDのない避難民の命はどうなるかわからない。物語は、ボスニア紛争時、国連軍の通訳として働いたヒロインが愛する者たちを守ろうと奮闘する姿を描く。あちこちに手を回すが、その気遣いは先走りすぎて空転するばかり。敵は交戦規定など持っていないならず者だとわかっている。一方で、敵の中に顔見知りがいたりして、数年前までは異教徒同士でも平和的に共存していたことをうかがわせる。何が友情を敵意に変えたのか。何が信頼を憎しみに変えたのか。仲介に入ったはずの国連軍がまったくの役立たずで、想定外の事態に狼狽し、責任逃れに終始する。その有様は、先進国が “人道支援” という上から目線で他国の紛争に介入する難しさを象徴する。

セルビア軍の侵攻で街を追われた市民はオランダ軍管理下の国連軍基地に殺到するがほとんどの人は敷地に入れない。アイダは彼らの中に夫と息子たちを見つけ、策を講じてゲートを通す。

セルビア軍への空爆計画を国連軍に反故にされたオランダ軍の士気は低く、撤収しか考えていない。当然残された避難民は見殺しにされる。国連の後ろ盾を失ったオランダ軍はセルビア軍との交渉にも弱腰で、ほとんど言いなりになるしかない。アイダもエゴを丸出しにし、家族だけは助けようと時に強引な手口で上官に迫り、完全に職業倫理を逸脱した行動に走っている。高潔な理念で規則を守り抜くなどというのは平時のきれいごと、いざ命の危険にさらされれば多少の不正を犯しても生き延びようとする。そんなアイダの、目の前のことで手一杯という切迫した気持ちがリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

セルビア軍は避難民たちをバスに乗せ安全な場所に移動させると提案する。彼らがどんな運命をたどるのかを知っていて、やっと言い訳が立つと安心するオランダ軍。圧倒的な暴力の前では、人間はなすすべもなく殺されていく。その無常観に打ちひしがれたアイダの瞳に戦争の本質が凝縮されていた。

監督     ヤスミラ・ジュバニッチ
出演     ヤスナ・ジュリチッチ/イズディン・バイロビッチ/ボリス・レール/ディノ・ブライロビッチ/ヨハン・ヘルデンベルグ/レイモント・ティリ/ボリス・イサコビッチ
ナンバー     169
オススメ度     ★★★


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