こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ディア・エヴァン・ハンセン

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息子の自死という悲しみの中で希望を見出そうとする母親を前に、真実を言い出せなかった。彼女を失望させたくなくて話を合わせただけだった。だが主人公がついた嘘は独り歩きし社会現象になってしまう。物語は、コミュ障少年がちょっと絡んだだけの男子生徒の “親友” 演じるうちに、本当の自分を見出していく過程を描く。クラスメートだけでなく、SNSに群がる無数の人々は皆、心温まるエピソードを求めている。彼らの欲求を満たすために、話を盛り、己の記憶を脚色して周囲に披露する。拡散するほど良心は疼くがもう引き返せない。決してひとりじゃないと訴えるメッセージは瞬く間に共感を呼び、彼はいつしかヒーローに祭り上げられる。リーダー的存在の少女が抗うつ剤に頼っていると告白する歌が、ポジティブ信仰の現実を物語っていた。

エヴァンが自分あてた手紙がコナーの遺品として発見され、コナーの母はエヴァンがコナーと親しかったと思い込む。その後もエヴァンはコナーからのメールを偽造してコナーの母に見せる。

コナーは心の病が重く、妹や継父にまで嫌われている。キレやすく学校でもはれ物扱いで生前の評判はすこぶる悪い。ところがエヴァンはコナーがいい奴だったと吹聴し、彼の人生を勝手に創造していく。深い人間関係を避けてきたエヴァンがコナーのことで注目を浴び、さらに自らの孤独をさらけ出した魂の叫びがネット経由で世間に影響を与えていく。エヴァンが作ったコナーの “感性豊かで思いやりに満ちた少年” 像は瞬く間に神話となる。このあたりの展開の速さは、人は信じたいことを信じると訴え、デジタル社会における人々の関心の熱しやすく冷めやすい実態をリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてエヴァンの話の不自然さに疑問を持ち始める者が現れ始める。問い詰められるうちにエヴァンは告白する。そして崩壊していく栄光の日々。嘘は時に人を救う。しかし、ネットの住民は決して嘘を許さない。正直者が損をしてはいけないが、善意の嘘が完全に否定される世の中はやっぱり生きづらい。

監督     スティーブン・チョボウスキー
出演     ベン・プラット/ジュリアン・ムーア/ケイトリン・デバー/エイミー・アダムス/ダニー・ピノ/アマンドラ・ステンバーグ/コルトン・ライアン/ニック・ドダーニ
ナンバー     217
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://deh-movie.jp/