こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ナイル殺人事件

f:id:otello:20220302101346j:plain

見たこと聞いたこと起きたこと体験したことを子細に検討し論理的に組み立てれば、おのずと真実が明らかになっていく。それは戦場でも殺人現場でも同じ。物語は、超絶な記憶力と洞察力を持つ探偵がクルーズ船で起きた事件を解決する過程を描く。被害者をいちばん憎んでいる女には鉄壁のアリバイがある。同時に、被害者は他の乗客の反感も買っている。居合わせた乗客すべてが容疑者、探偵はひとりずつ尋問していくうちに犯人像を絞っていく。あり余る財産を自由に使える資本家、時代の流れに取り残され没落してしまった貴族、上流階級を仰ぎ見るだけの労働者etc.  人種やジェンダーへの配慮を除けば、大河を遡上する人々のバックグラウンドは21世紀以上に格差が開いていた1930年代の資本主義社会の縮図。現代は当時よりよい世界になっているとは思えない。

サイモンは婚約者のジャッキーを捨てて大富豪のリネットと結婚する。サイモンとリネットは招待客と共にナイル川クルーズに出発するが、その船にジャッキーが乗りこんでくる。

招待客に紛れ込んだポワロは、ジャッキーに自制を求めるが、ジャッキーはサイモンとリネットにしつこく付きまとう。自分を捨てた男と捨てさせた女へのすさまじいまでの執念、いや怨念と言ってもいいほどの恨み。なんでもカネで解決できると思っているリネットに対し、大切なものを奪われたジャッキーの怒りを印象付ける。ジャッキーだけではない。招待客はみな彼女が持つ富に引き寄せられているだけで、結局彼女が死ぬことでなんらかの利益を得る者ばかり。カネでしか人間関係を築けない富裕層の孤独が切なかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ポワロが乗客全員の証言と証拠を集め整理する過程で、第2第3の殺人が起きる。彼らはなぜ殺されたのか、なぜ目撃者は黙っていたのか。人間の業と欲が複雑に絡み合い、事件の真相を深い闇の奥に沈めようとする容疑者たちの姿にはどこか親近感を覚えた。ただ、そもそもリネットがサイモンに恋をするという確信がなぜ犯人の中にあったのだろうか。

監督     ケネス・ブラナー
出演     ケネス・ブラナー/ガル・ギャドット/アーミー・ハマー/トム・ベイトマン/アネット・ベニング/アリ・ファザル/ローズ・レスリー/エマ・マッキー/ソフィー・オコネドー/レティーシャ・ライト
ナンバー     39
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/nile-movie