マフィアのボスを逮捕したけれど、街が安全になったわけではない。強盗や暴漢、麻薬などの犯罪は相変わらず起こり、すべてに目を光らせるのは不可能。物語は、コスチュームに身を包んだ闇のヒーローが連続殺人犯を追う過程を描く。現場に残された彼あてのメッセージはこの街に隠された真実を示唆し、それは主人公自身の過去と密接につながっている。信じてきた正義は本当に間違っていなかったのか。もしかしたら犯人こそが正しいことをしているのではないか。目の前の事件にばかり目が行くと全体像が見えない。全体を見ようとしてもさらなる死体が増えるだけ。そして見つけた自分と犯人の共通点。多様な価値観が混ざり合った混沌の大都会で苦悩する彼の姿は、未来に希望を見出せないすべての現代人の共感を呼ぶだろう。
市長が殺され、リドラーがバットマンに宛てた手紙が見つかる。さらにリドラーは汚職を告発、バットマンは捜査を進めるうちに、警察や検察の上層部が犯罪組織と絡んでいる実態を知る。
コスチュームは防弾防刃仕様になってはいるが、肉体は傷だらけ。超人的な強さではなく、生身の人間が鍛錬しただけのバットマンは、ブルースという正体を隠しほとんど外部に顔をさらさない。両親を殺された過去がずっと心の重石となり、悪への復讐が生きるモチベーションになっているのだ。社会に対する憎しみが複雑にねじれ、犯罪者をぶちのめすことにしか生きる意味を見出せなくなったバットマンの矛先は、矛盾する世界の中で目の前にあるわかりやすい悪に向く。やがてリドラーから誘いを受けたバットマンは、リドラーこそが己の歪んだ鏡像であると気づく。それはまた、バットマンもひとつ間違えれば悪の道に落ちたかもしれないことを示す。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ムササビスーツで高層ビルから滑空するシーンが、そのオチも含めて彼のヒーローとしての未熟さと精神的なもろさを象徴する。「巨人のライトモティーフ」とそっくりのテーマ曲が、バットマンの運命には「呪い」が付きまとうと暗示していた。
監督 マット・リーブス
出演 ロバート・パティンソン/ゾーイ・クラビッツ/ジェフリー・ライト/ポール・ダノ/コリン・ファレル/アンディ・サーキス/ジョン・タトゥーロ/ピーター・サースガード
ナンバー 48
オススメ度 ★★★