こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キャメラを止めるな!

クオリティの低いゾンビと感情表現が下手な女優。血しぶきだけは派手に飛び散るけれど、会話のテンポは悪く間延びしている。物語は、そんな映画を監督した男の奮闘を描く。「安い、早い、質はそこそこ」と自分で言って、その評判に安住している。せっかく与えられた大きなチャンスに尻込みしている。だが、娘が現場で頑張っている姿を目の当たりにし、妻に尻を叩かれ、彼は腹をくくる。自己主張の強い出演者、注文の多いプロデューサー、わがままなスタッフ、飲んだくれの俳優。やがて、一癖も二癖もある連中を相手に、なだめすかし撮影を進めようとする主人公の仕事にかける情熱がスクリーンからほとばしり始める。撮影現場とスタッフルームを全力疾走で往復する彼の横顔は、人間追い詰められたら思わぬ力を発揮できることを教えてくれる。

ワンショット生放送30分のゾンビ映画の監督を依頼されたレミー。脚本を書き上げ、キャスト・スタッフのミーティングに臨むが、主演俳優がさっそく屁理屈のような文句を垂れる。

出演者たちは少しでも目立とうと我を張る。スタッフも下っ端を除けばプライドばかり高い。原作に忠実にしろと権利者は目を光らせている。彼らの話に真摯に耳を傾けつつも、自らの世界観を理解してもらうために議論を重ねるレミー。自分のアイデアを否定されはらわたが煮えくり返っているのに、決して怒りを表情には出さずに説得しようとする。俳優として自ら出演した彼が抑えていた感情を爆発させるシーンは、まさにホンモノ。その熱量が拡散するうちに、すべてのキャスト・スタッフの目の色が変わっていく。周囲を変えるにはまず己から変わらなければならないとレミーの背中は訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

原作に下手な解釈を加えずほぼそのままリメイクしたところに好感が持てた。特に、冷え切っていた父娘関係が撮影を通じて信頼を取り戻しラストシーンに昇華される展開は、わかっていても涙を誘う。“アツアツおばさん” の強烈なキャラが通訳されることで薄まってしまったのが少し残念だったが。

監督     ミシェル・アザナビシウス
出演     ロマン・デュリス/ベレニス・ベジョ/グレゴリー・ガドゥボワ/フィネガン・オールドフィールド/マチルダ・ルッツ/セバスティアン・シャッサーニェ/ジャン=パスカル・ザディ/竹原芳子/ルアナ・バイラミ
ナンバー     131
オススメ度     ★★★


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