こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キツツキと雨

otello2012-02-14

キツツキと雨

オススメ度 ★★
監督 沖田修一
出演 役所広司/小栗旬/高良健吾/臼田あさ美/古舘寛治/嶋田久作/平田満/伊武雅刀/山崎努
ナンバー 35
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

山奥の村でひたすら木を伐採する素朴な木こりと、東京から映画の撮影にやってきた新人監督。まったく違う世界に住み普通なら決して出会うはずのなかった2人の運命が交わった時、不思議なパワーが生まれお互いの人生に影響を与えていくアイデアは面白い。だが、己の脚本・演出に自信が持てない監督が、木こりの助けを借りるうちに徐々に本来の自分を取り戻し、素晴らしい映像をカメラに収める過程は、いたずらに煮え切らない上なかなか物語が展開せず、覚悟を決められない監督の姿に、彼を取り巻くスタッフ以上の苛立ちを覚えてしまう。映画は、シリアスでもなくコミカルでもない独特の雰囲気を持っているが、それが見る者に退屈を押しつけていては本末転倒だ。

ゾンビ映画のロケ隊を手伝う羽目になった木こりの岸は、助監督に頼りっぱなしの監督・田辺にあきれている。ある夜、温泉で田辺と会った岸は彼を駅まで送るが、田辺はプレッシャーのあまり逃げ出す途中だった。

駅でスタッフに見つかった田辺は助監督に「監督できるのがどれだけ幸せかわかってんのか」となじられるが、「すみません」と謝るばかり。クリエーターを目指し業界に入ったものの、才能ある若者に先を越された嫉妬と悔しさが中年男の口から思わず飛び出すシーンに、映画とはこうした人々の情熱によって支えられていることが見事に再現されていた。その、映画が好きでたまらず、監督になる夢にしがみつくしかない助監督の心情が哀しいほどリアルだった。

◆以下 結末に触れています◆

やがて、岸が現場を仕切り始めると村を挙げての協力体制が出来上がり撮影がスムースに進行するが、依然田辺には数十人のキャスト・スタッフをまとめようとする覇気が生まれない。大勢の人々が一つの目標に向かって力を合わせ完成させる、本来ならば大いなる達成感が得られる作業なのに田辺はウジウジしたままで、いつまでたってもヤマ場らしきエピソードは描かれないのだ。田辺のゾンビ映画には一応肉親同士の愛と憎しみの葛藤というクライマックスが用意されているのに、この映画自体にカタルシスがないのはどうしたことか。。。

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