こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

今夜、世界からこの恋が消えても

目覚めると昨日の記憶が消えている。覚えているのは事故にあった日まで。毎朝その事実を両親に知らされるたびに絶望的な気分になる。それでも「今日の自分」のために「昨日の自分」が残してくれた日記を読んで気持ちを切り替える。物語は、前向性健忘の少女の恋を描く。他組のよく知らない男子に突然告白された。状況を飲み込めないまま了承してしまった。自分を変えるためには一歩踏み出さなければならないと思っていた彼女は、彼と疑似恋愛の契約を結ぶ。やがて、ふたりはお互いの事情を知るうちに、相手を気遣い、むしろ気遣いすぎて空回りする。そんな、思いやりに満ちた高校生の不器用なやさしさがいとおしく感じられた。計算されたライティングに浮かび上がる少年少女の姿は、はかなくも美しかった。

症状を隠して透と付き合い始めた真織。透のあらゆる情報を聞き出してはメモし、デートに備える。だが、ピクニックに出かけた先で居眠りしてしまい、その日の記憶がなくなってしまう。

短時間でも意識が落ちると、もう目の前いる透が誰なのかわからなくなる。彼女の秘密を知る親友の泉を呼び出して事なきを得るが、真織はやっぱり透に打ち明けてしまう。それは透にとって。真織の人生を引き受けるということ。複雑な家庭環境で育ち、他人の気持ちを察して共感する能力に長けた透は、むしろ真織の日々をもっと輝かしいものにしたいと、彼女のペースに合わせていく。毎日日記を読み返して過去を埋める真織と、彼女を傷つけないように心を配る透。同時に、透の家族事情も明かされるが、初老に達してもなお文学賞を目指す男が娘に先を越され実績でも大きく引き離されるシーンが、娘の成功を素直に喜べないダメ男のプライドを象徴していて印象に残った。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

手書き日記とワープロ日記の謎が解明されていく過程で少し安易な展開に走るが、脳に刻まれた記憶は消えても魂に刷り込まれた恋の喜びと愛のぬくもりはいつまでも残っているという人間の能力を肯定するあたり、非常に心地よかった。

監督     三木孝浩
出演     道枝駿佑/福本莉子/古川琴音/前田航基/松本穂香/野間口徹/水野真紀/萩原聖人
ナンバー     142
オススメ度     ★★★


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