こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

長崎の郵便配達

空軍パイロットとして武勲を立てた。英王室のプリンセスと恋に落ちた。クルマで世界一周の旅に出た。それら数々の伝説を残した父が最も力を注いだのは被爆者の聞き取り調査。映画は、ひとりの女優が父の足跡をたどる過程を追う。父は、原爆で大やけどを負って生き残った日本人と親しくなった。彼の遺族を訪ねると、言葉は通じなくても気持ちは理解できた。やがて彼女は当時を知る人々に取材し、被害の実態と父の人となりを明らかにしていく。それは父が願った平和を探す旅でもある。延々と上る細い階段、先祖を祭る灯籠、壮麗なカトリック教会、爆心地の俯瞰、故人の霊を慰める小舟を道路から引き上げる行事etc. そんな、長崎情緒たっぷりの映像は旅情を刺激する。浦上教会の聖職者が、英語ではなくフランス語でインタビューに答えていたのには驚いた。

父の著作「長崎の郵便配達」を深掘りするために長崎にやってきたイザベル。父が作品のテーマに据えた谷口の人となりを知るため、谷口の家族に会い、思い出話を聞き出す。

谷口は核兵器廃絶運動に身を投じ、NYの国際機関で演説を行ったりしている。真っ赤に焼けただれた背中を治療するためにうつぶせ寝をせざるを得なかった被爆直後の谷口の写真と体験談は、想像を絶する痛みを実感させる。何万人の反核兵器活動家・政治家が声を上げるよりも、谷口の背中の方がよほど説得力がある。その後もイザベルは原爆被害の遺構遺物を歩き回るが、実質的に父が取材し著した情報以上の事実は発掘されることはない。元々ジャーナリスティックな目的があったわけではなく、イザベルのゆるーい見聞記は続く。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

晩年の谷口がカメラの前でタバコを吸っている。人前での喫煙が失礼ではない時代に育ったのだろうが、原爆の悲惨さを訴えていた同じ口がタバコをくわえているのは違和感を覚える。なんか彼の演説の貴重さが棄損されたような気がした。もう21世紀になっていたのだ。谷口はタバコをやめるべきだったし、そもそもこんなショットを使うべきではなかったと思う。

監督     川瀬美香
出演     イザベル・タウンゼンド/谷口稜曄/ピーター・タウンゼンド
ナンバー     145
オススメ度     ★★*


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