こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

よだかの片想い

こんな私に興味を持ってくれる。理解しようとしてくれる。新たな世界に連れ出してくれた上に好意まで示してくれる。でも、信じていいのだろうか? 物語は、左頬に大きな痣がある女の恋を描く。自伝が売れた。映画化の話が来た。監督と話すうちに、彼の芸術観に共感した。その外見ゆえに複雑な思いを抱えて生きてきた彼女は、監督の言葉が真実に思えてくる。いつしか彼女は監督の恋人として振る舞うようになるが、彼にはまた別の顔がある。ヒロインは傷つきやすいけれど意外とタフ、慣れているのにやっぱり繊細。感情がすぐに行動に出るけれど、我慢強い一面もある。でも周囲は彼女に何も言えない。彼女はそれが腹立たしい。もはやややこしいとしか思えない。そんな測りがたい女心がリアルに再現されていた。

映画監督・飛坂の作品に胸を打たれたアイコは、少しずつ彼に惹かれていく。ところが、知人の女優・美和を紹介され、まだ納得していない映画化の話が勝手に進んでいることにへそを曲げる。

不機嫌なアイコを飛坂はなだめる。長身イケメンでセンスもいい飛坂に自分の心を見透かされた気がしたアイコは胸襟を開き、彼と付き合っている気分になる。仕事と思えばそれも厭わない飛坂は、アイコの気持ちに応えようとする。己の作品のために恋愛を偽装して肉体関係を結び相手の信頼まで利用するという、me-too運動の標的にされそうな飛坂の行為。それでもアートとは本来そういった感情や人間の本質を昇華させたものでもあるはず。飛坂をセクハラ監督のようには扱わず、アイコも美和も彼の映画に対する思いを納得して受け入れているところに好感が持てた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

小4の時に初めて痣のことをクラスメートに指摘され、先生が咎めたエピソードが秀逸だ。アイコ自身は実は注目されてうれしかったのに、先生の「理性的な対応」のせいでかえって嫌な思いをする。善意や親切が、時に相手のトラウマとなるほど傷つけることもある。多様になりすぎた価値観の答えはひとりひとり違うとこの作品は教えてくれる。

監督     安川有
出演     松井玲奈/中島歩/藤井美菜/織田梨沙/青木柚/手島実優
ナンバー     139
オススメ度     ★★★★


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