こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あちらにいる鬼

小市民的な良心や道徳など歯牙にもかけない。出会った男に、たとえ妻や子供がいても、とことん愛し抜く。男もまた、嘘で固めた人生の1コマとして、女との葛藤を胸に刻んでいく。物語は、流行作家同士の熱烈な恋を描く。女は夫と子を捨て小説に打ち込む決意をした。男は妻子を持ちながらも手当たり次第に女を口説いている。自分が彼にとってオンリーワンではないのを知りながらも、一番強く心を惹かれている。そもそも恋愛は自由、結婚や家庭に縛られるものではない。魂の苦悩を文学に昇華するためには全身全霊で相手に心を捧げなければならない。その身を焦がすような思いこそが芸術的な価値を高めるのだ。過去の男女関係をほじくり出しては表現者を貶めようとするキャンセルカルチャーの流行に一石を投じる作品だった。

講演先の楽屋で白木と出会ったみはるは彼と付き合い始める。白木には家庭があったが、妻は浮気を見て見ぬフリ。お互いに別の愛人がいながら、ふたりはかけがえのない存在になっていく。

白木の妻・笙子は白木の性愛にきわめて鷹揚に構え、決して嫉妬したりはしない。それだけでなく、白木がノートに書き散らした文章を原稿用紙に清書したり、オリジナルのストーリーを白木に提供したりする。それは、白木に捨てられないための表面的な従順さなどではない。むしろ白木を掌の上で操っている快感を得ている。白木という稀有な才能の庇護者としてその役割を積極的に担っているのだ。どんな女も彼女には勝てない、そう思わせる凛としたたたずまいは、彼女の強さと哀しみを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

不倫関係はつかず離れずだらだら続くが、白木はローンを組んで家を買う。“家とか家族が象徴する幸福” を手に入れようとした白木に対し、みはるは一切の煩悩を捨て出家する決意を固める。頭にバリカンを入れ、残った髪をカミソリできれいに剃る。その、穢れを落とし身を清めるかのような儀式は、神聖な趣をはらむ。みはるを演じきった寺島しのぶの役者魂は神々しいまでに美しかった。

監督     廣木隆一
出演     寺島しのぶ/豊川悦司/広末涼子/高良健吾/村上淳/丘みつ子
ナンバー     212
オススメ度     ★★★


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