ハンサムで優しい夫、フレンドリーな隣人と上司、きれいに整備された住宅街。家事を丁寧に仕上げた後はプールサイドで主婦同士の井戸端会議。理想の暮らし、完璧な人生。現在にも未来にも心配することなど何もない。物語は、そんな日常に強烈な違和感を覚えた女の葛藤を描く。何も知らなければ、好奇心さえ持たなければ、ずっと幸福が続くのに、心の奥に芽生えた疑惑は日々大きくなっていく。男たちは隠し事をしている。妻たちは感づいているのに目をそらしている。絶対におかしい。真実を突き止めなければ。そう確信したヒロインは、たった一人で反乱を起こす。催眠術をかけるかのような脚ダンス、意識を操られている不快感、現実と見分けがつかない悪夢。それらヒロインの幻覚をイマジネーションあふれる映像がリアルに再現していた。
砂漠の中の住宅地で平凡な毎日を送るアリスは飛行機の墜落を目撃、現場で謎のドームを発見する。その後、主婦仲間のマーガレットが自殺したのを目撃するが、その事実はもみ消される。
自分が見たことを周囲に話しても取りあってもらえない。夫はアリスの心配よりも評判を気にするばかり。医者は過労という。それでもマーガレットの資料が黒塗りにされているのを見たアリスは、己の直観が正しいと確信する。この町の創設者・フランクは懐柔するが、それも罠と見抜く。周囲が敵だらけの状況でひとり闘うアリスの、怒りと焦りと危機感と結局は大きな力で操られているという絶望。それらの複雑に入り混じったアリスの感情をフローレンス・ピューが熱演する。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがて、潜在意識の奥に封じ込められていた記憶が少しずつ戻り始める。自分はいったい何をされたのか、本当の自分は何者だったのか。そして夫は誰なのか。VRの流行と共に、現実から逃避してヴァーチャル世界の心地よさから抜け出せなくなり、やがてそちらこそ自分がいるべき世界だと思い込む。現実での絶望の果てに、こんな生き方を望む人が増えるかもしれない危惧を、映画は説得力豊かに訴えていた。
監督 オリビア・ワイルド
出演 フローレンス・ピュー/ハリー・スタイルズ/オリビア・ワイルド/ジェンマ・チャン/クリス・パイン
ナンバー 213
オススメ度 ★★★