こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

Arc アーク

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不老不死の体を手に入れた者は幸せになれるのか。人類の進化にブレークスルーをもたらす技術なのに、すべての人が望んでいるわけでもない。物語は、30歳で不老不死の処置を受けた女が、愛と人生の真実にたどり着くまでを描く。若いころはやり場のない怒りを抱え、死を恐れていた。死が普遍的であると理解すると、“生” に興味がわいてきた。その先にあるのは、老いずに生き続けるという選択。一方で、健康でいられるのは一部の金持ちと遺伝子異常のない者だけといった格差も生み出す。「死なないことは死ぬことより人生の恐怖を喚起する」という言葉が、永遠の命の意味を問うていた。ヒロインが肉体的に加齢する ”現在” は冷たくてもカラーを持ち、加齢が止まった “未来” は色彩を失った世界。限りがあるからこそ命は輝くのだ。

産み落とした子を捨てたリナはエマに拾われ、遺体保存工房で働き始める。そこで出合ったエマの弟・天音は、体内に特殊な液体を注入することで細胞を常時活性化させる技術を完成させる。

ナイトクラブでの無音楽舞踏は、社会になじめない己に対する不満を爆発させているかのよう。エマが無数のひもを操って遺体にポージングする場面は、優雅だが決然とした意志が宿っている。それは、肉体こそが精神の入れ物であって、肉体が若ければ精神も瑞々しいままでいられることを象徴する。10余年後、リナが工房のリーダーになり、エマのパフォーマンスを引き継ぐが、もはや死は彼女にとって乗り越えるべきハードルとなっていたのだろう。天音の研究の実験台になる決意表明会見で、リナは、永遠の命の意味をこれからの生き方で証明すると宣言する。人類でまだ誰も足を踏み入れたことのない領域に踏み込む勇気を、芳根京子は倒的な目力で表現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

世の中は、生き続ける人と死ぬ人の2種類に分類される。30歳の見かけのままのリナは自分よりも年齢の低い老人の世話をしている。そこはディストピアのようなユートピア。やはり、老いと死が人生を尊くするとこの作品は訴える。

監督  石川慶
出演  芳根京子/寺島しのぶ/岡田将生/清水くるみ/ 井之脇海/中村ゆり/倍賞千恵子/風吹ジュン/小林薫/鈴木咲
ナンバー  116
オススメ度  ★★★*


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