こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

レジェンド&バタフライ

刀を振り回す夫を素手で組み伏す。狩りに出れば飛ぶ鳥を射落とし、崖から落ちそうになった夫を救出する。大軍に囲まれ絶体絶命の危機にあっても落ち着き払い、浮足立った夫を奮い立たせて大逆転勝利に導く。物語は、戦国の世に覇を唱えた武将とその妻の固い絆を描く。政略結婚ゆえ、お互い腹に一物を抱えている。うっかり相手を信用すると寝首を掻かれるかもしれない。それでも修羅場を潜り抜けるうちにふたりはお互いを必要とする関係に発展していく。美貌だけでなく武芸・暗殺術にも長け、先に嫁いだ夫2人のみならず3番目の夫の命の扱いも父に言い含められている気の強い姫を綾瀬はるかが圧倒的な身体能力で好演、正史では語られる機会が少ない正室に現代風アレンジを加え斬新なキャラクターの創造に成功している。

うつけと呼ばれていた織田信長の元に輿入れした姫はその辣腕を発揮、信長が天下取りを目指すように仕向ける。延暦寺を焼き討ちにした後、姫は信長に離縁を申し出、信長も承諾する。

仏のみならず女子供まで焼き殺した信長はもはや人にあらず、魔王と自他ともに認める存在になっていく。自らの所領を守ろうと汲々としていた小大名が同じ立場の父を持つ姫を娶って高みを目指す。決してきれいごとではない。京の貧民窟で襲い掛かる下層身分の男女を容赦名なく切り捨てる信長と姫の姿は、平和は殺し合いの果てにしか生まれないことを教えてくれる。ふたりが身に着ける衣装から岐阜城の設え、南蛮人の風俗から巨大な安土城まで、創意と装飾を尽くした映像はディテール豊かに豪華絢爛たる戦国時代の覇者を再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして、本能寺の変の直殺原因といわれる徳川の饗応。光秀が恨みや憎しみから謀反に走ったのではなく、魔王の冷血さを失ったことへの失望だったという新解釈は、日本史上最大の裏切り者の人物像に奥行きを与えていた。全体的に派手な合戦シーンは抑制し姫との関係にフォーカスした新「信長公記」、愛ではなく共に戦う同志として姫を扱うあたりが新鮮だった。

監督     大友啓史
出演     木村拓哉/綾瀬はるか/宮沢氷魚/市川染五郎/斎藤工/北大路欣也/本田博太郎/尾美としのり/音尾琢真/伊藤英明/中谷美紀
ナンバー     17
オススメ度     ★★★


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