フレームの片隅に映った幸せそうな姿。夫の親友に寄り添ったときに見せる笑顔。そしてクルマの前照灯に照らされた優雅なダンス。撮影されたフィルムの断片をつなぎ合わせることでひとりの女の感情が意味のあるストーリーとして紡がれていく。物語は、映画の魅力にとりつかれた少年の成長を描く。機関車が線路内のクルマを跳ね飛ばし脱線する映像に度肝を抜かれ、自分でも同じシーンを再現しようとした。ボーイスカウトに入ると撮影クルーを編成しオリジナルの映画を作った。カメラや出演者の位置を工夫し、音が入っていなくても内容を理解できるように工夫した。現像されたフィルムをひとりで編集し、緊張感を盛り上げるにはどうするかを学んだ。主人公が自らの想像力を創造力に昇華していく過程は、映画こそが夢を具現化する芸術であると訴える。
エンジニアの父・バート、主婦の母・ミッツィ、3人の姉妹と暮らすサミーは、いつも8ミリカメラを回していた。バートの転職でカリフォルニアに引っ越したことから一家の平和は乱れる。
バートの親友・ベニーは家族同様の仲。芸術家肌のミッツィは何事にも理論的なバートよりベニーに心を寄せていて、葛藤を抱えている。大人の事情が少しわかるようになったサミーは複雑な気持ちを抱えたまま転校していくが、ユダヤ人であるためにいじめにあう。いじめの首謀者に対するサミーの復讐は、映画は時に人の心をずたずたに切り裂く凶器にもなりうると教えてくれる。その映画の中で繰り返される飛ぶカモメと垂らされたソフトクリームの映像は、まさしくモンタージュ理論の実践で思わず笑ってしまった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
スピルバーグの自伝的映画という触れ込みだが、サミーはあまり映画館に行かない。彼がどういう映画のどのシーンに興味を持ったのかをもっと知りたかった。まさか薫陶を受けたのが、エイゼンシュテインとデミルとフォードだけということはあるまい。2時間半の上映時間はあっという間で、エスプリの利いたラストシーンの続きを見たいと思った。
監督 スティーブン・スピルバーグ
出演 ミシェル・ウィリアムズ/ポール・ダノ/セス・ローゲン/ガブリエル・ラベル/ジャド・ハーシュ/デビッド・リンチ
ナンバー 40
オススメ度 ★★★
↓公式サイト↓
https://fabelmans-film.jp/