こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

納税のために書類の山と格闘しているのに役立たずの夫は手伝ってくれない。反抗期の娘は同性恋人を家に連れてきて一家の伝統に背を向ける。要介護の老父は頓珍漢な言動を繰り返す。物語は、思い通りにならないことばかりで頭の中が爆発寸前になった女が、マルチバースとリンクして様々なパワーを得る姿を描く。装着したイヤホン型デバイスが緑色に光りだすと、他バースの自分と接続する。その世界では、今の自分とはまったく違う人生を歩んでいる自分がいる。自分ではない自分。自分が知らなかった自分。でも彼らはお互いの人格の中に溶け込んでその能力を惜しみなく貸してくれる。壮大なイマジネーションとスピーディかつユニークな表現はチャレンジングな精神に満ち、圧倒的な映像の洪水となってスクリーンからほとばしる。

コインランドリーを経営するエヴリンは、夫と父と共に税務署で書類の不備を指摘されていると、突然異次元から現れた夫から全宇宙を救うために闘えと指示され、通信機を渡される。

通信機を通じてエヴリンが垣間見るのは他バースで成功した自分ばかり。過去において無数の選択をしてきたが、それが裏目に出ているのが今の自分。別の選択をしていていればもっと違った人生、満足のいく人生を送れたのではないかという後悔には大いに共感できた。他バースからやってきた夫がいきなり覚醒したように身体能力を向上させ、ウエストポーチをヌンチャクのように振り回して亜警備員たちと派手に立ち回るシーンは、変身願望がかなえられたような気分で爽快だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、中盤からは同工異曲の映像が繰り返されるばかりで展開は停滞気味。一人娘がマルチバースを崩壊させるラスボスで、彼女との死闘がテーマになっていく。その挙句、結局一周回って元の人生を愛せという教訓じみたメッセージに帰結する。アクションが刺激的になればなるほど、カオスが深まるほど、退屈を感じるようになっていくのは、慣れてしまったからなのか。なんでもありは、やっぱりなんにも残らない。

監督     ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート
出演     ミシェル・ヨー/ステファニー・スー/キー・ホイ・クァン/ ハリー・シャム・Jr./ジェームズ・ホン/ジェイミー・リー・カーティス
ナンバー     41
オススメ度     ★★


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