こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

くちびるに歌を

otello2014-12-20

くちびるに歌を

監督 三木孝浩
出演 新垣結衣/木村文乃/桐谷健太/恒松祐里/下田翔太/石田ひかり/木村多江
ナンバー 292
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

私はなぜ生まれてきたのか、何のために生きているのか。大人でも迷うその問い、15歳の少年少女には限りなく重い。明確に自覚している者もいるが、答えを模索しても言葉にはできない者がほとんど。数年後の将来はおぼろげながら見えてきているがまだ形を成していない中学生たちの、人生への微妙な不安と期待がリアルに再現される。映画は離島の中学校に赴任してきた元ピアニストが、コーラスを通じて音楽がもたらす感動を再発見していく過程を描く。熱血教師が無気力な生徒に夢と希望を持たせて導いていくような従来の学園モノとは正反対の構図を取り、やりたいことは大人になってから探しても遅くないと訴える。目の前のタスクを精一杯やり抜く気持ちが未来につながるのだ。

音楽の代用教員・ユリは合唱部の指導を任されるが全くやる気ナシ。しかも、男子部員を入部させ部長のナズナを怒らせる。ユリはコンクールを目指す部員たちに「15年後の自分」に宛てた手紙を書く課題を与える。

成り行きで合唱部員になってしまった悟は素晴らしいボーイソプラノだが、家庭の都合で思うように練習の時間が取れない。だが、ユリは彼の事情を知っても両親を説得しようとはしない。このあたり、傷心を抱えてこの島にやってきたユリの喪失感の深さを物語る。それでも、“兄の世話をするのが自分の存在理由”という悟を見て、少しずつユリも変わっていく。最愛の人を失って世界一不幸と思っていたのに悟はもっと過酷な運命を小さな背中に負っている、そう気づいてもう一度ピアノに向かうユリの姿は、過去にきちんと向き合わないと前には進めないと主張していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして迎えた合唱コンクール当日、ここで“お約束”的ハプニングが本番直前に起きてひと悶着あるが、生徒の機転で無事切り抜ける。腹の底から発声すればこんなにも幸せになれる、声をそろえて合唱すれば大勢の人の心をひとつにできる。そんな“歌の力”を教えてくれる作品だった。

オススメ度 ★★★

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