こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

インスペクション ここで生きる

鉄の規律を叩き込まれ厳しい鍛錬を課される。男たちの肉体は引き締まり鍛え上げられた筋肉で武装されていく。だが、シャワー室で彼らの裸を見るうちに思いがけずに反応してしまった。物語は、21世紀初頭、海兵隊に志願したゲイの若者が差別や偏見と闘いながら一人前の兵士に成長していく過程を描く。男だけの世界に同性愛者が混ざるのは危険で、彼らの拒否反応は自然なことだ。教官からは目の敵にされ同期からは排除される。そんな環境でも主人公は黙って耐える。イスラム教徒の訓練生に共感するシーンは、中東のテロリストを倒すために養成される兵士たちの中でのイスラム教徒の置かれた立場は同性愛同様にセンシティブだったことをうかがわせる。感情を刺激するような演出を一切排した映像は、米軍内におけるマイノリティの実態をリアルに再現していた。

訓練所に入ったフレンチはゲイであることを理由に徹底的にスポイルされる。あまりにも理不尽な扱いに時に反論することもあるが、きちんと教練をこなすうちに受け入れられていく。

主任教官は露骨にゲイを嫌い事故を装ってフレンチを殺そうとまでする。理解のある教官もいるが彼もまた秘密を抱えて苦悩している。敵を倒すために仲間との信頼を築き上げないといけない組織、そこに異なる価値観・性向を持ち込む危険性は計り知れない。周囲が納得するまでその状況を受け入れるしかないフレンチの覚悟は、やがて彼らの心の壁を切り崩していく。フレンチの不屈の精神力と他人を思いやる心は、人は何を思い考えたかではなくどんな行動をとったかで評価されると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

主任教官以上に保守的な母に、フレンチは少年時代から嫌悪されてきた。それでも、自分が役に立つ人間であると証明するために海兵隊員を志した。なのに母は同性愛を貫くフレンチへの頑なな態度を変えない。息子への愛情よりも深い同性愛者忌避の溝。強く願えば思いは通じるなどという甘ったるい展開などではなく、あくまで冷徹に現実を見つめる視点が卓越していた。

監督     エレガンス・ブラットン
出演     ジェレミー・ポープ/ラウル・カスティーロ/マコール・ロンバルディ/アーロン・ドミンゲス/ガブリエル・ユニオン
ナンバー     146
オススメ度     ★★★★


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