こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

名探偵ポアロ ベネチアの亡霊

引退したのに世間は放っておいてくれない。家の前には依頼者が長蛇の列を作り、町を歩けば懇願される。彼の体に触れた者は容赦なくぶちのめされるのに、それでも人々はその名声に頼ろうとする。物語は、かつて悲劇に襲われた屋敷で行われる儀式に招待された元探偵がそこで起きた2件の殺人事件を解決するまでを描く。霊は実在すると信じている人々の前で主人公は断固として否定する。さまざまな怪奇現象が起きても顔色一つ変えず、綿密に拾い上げたディテールと組み合わせてそのトリックを見破っていく。そして浮かび上がる意外な人間関係と過去。あくまでも科学と合理性を信じ、決して感情に惑わされない彼の推理はミステリーの王道を行く。中世から変わらぬ街並みの町、そこで暮らして行くためには莫大な維持管理費用がかさむという現実は、今も変わらぬ悩みに違いない。

第二次大戦直後のベネチア、ポワロは、自殺した娘の降霊会に参加する。高名な霊能者が次々と繰り出すのインチキを早々に見破るが、霊能者は奇妙な他殺体で見つかる。

屋敷を封鎖したポワロは降霊会出席者全員を一堂に集め、それぞれの素性を調べる。そこで明らかになる、彼らがこの日にここに集まったのは偶然ではなく、周到な準備の後に厳選されたメンバーだという事実。それは解決できない事件の原因を悪霊に帰することで殺人容疑者からも逃れようとする、犯人からポワロに対する挑戦状なのだ。それに対し、誰かが口にしたこと、特に科学的な根拠のないスピリチュアルな出来事を疑わずに信じてしまう態度に警鐘を鳴らすポワロ。どんなに巧妙を装っても、子細に検分すれば嘘は必ずほころびを見せるとポワロの信念は教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

犯人が間違えて殺そうとした相手がポワロだったり、半分にちぎられた写真が床に落ちていたりするなど現代ミステリーの水準からするとできすぎた部分もある。それでもケネス・ブラナの重厚な演技と演出は、上流階級の没落というアガサ・クリスティーの世界観を忠実に再現していた。

監督     ケネス・ブラナー
出演     ケネス・ブラナー/カイル・アレン/カミーユ・コッタン/ジェイミー・ドーナン/ティナ・フェイアリ/ジュード・ヒル/アリ・カーン/エマ・レアード/ケリー・ライリー/リッカルド・スカマルチョ/ミシェル・ヨー
ナンバー     173
オススメ度     ★★★


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