こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ファースト・カウ

表面はカリカリだが中は柔らかな歯ごたえ、口に広がる甘くまろやかな味わいはたちまち舌を虜にする。ところが、それには禁断の材料が使われていた。物語は、米国西部の開拓地でドーナツ屋を始めた白人と中国人コンビの夢と欲望を描く。食べ物は乏しく腹が満たされればOKという時代、小麦粉を牛乳で練ることで懐かしい味覚を刺激する。人々は長蛇の列を作り、ドーナツを口にするためには散財をためらわない。だが、まだまだ牛乳は貴重品、彼らは集落に1頭しかいな牝牛の乳を夜な夜な盗んでいる。ほどなくひと財産築くが、そろそろ潮時と思う白人に対し、もっと稼げると中国人は言う。掘っ立て小屋に住み銀貨か物々交換で必要なものを手に入れる社会では信頼が最大の武器になっていく。2人の関係から同性愛的な要素を排除したのは慧眼だ。

オレゴン州の小さな村に流れ着いた料理人のオーティスは、かつて命を助けた中国人移民のキング・ルーと再会、近くの草原に放牧されている仲買人の牝牛から無断で乳を搾る。

2人のドーナツの評判を聞いた仲買人が「ロンドンの味がする」と絶賛するが、牛乳を使っているとは言えない。さらに2人は仲買人からブルーベリーケーキの注文を受ける。会話の端々に、バファローやビーバーが毛皮のためだけに乱獲され個体数を減らしていると仄めかされるが、人間が生きていくのに精いっぱいで環境に対する配慮などまったくなかったことが非常に興味深い。貝殻がまだ通貨代わりに使われているのも驚きだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

荒くれ者・無法者の狼藉や権力者による搾取などフロンティアを描いた従来の暴力に満ちた映画とは一線を画し、銃やナイフといった武器はほとんど無縁で罰としての打擲も会話の中だけにしかでてこない。その映像は、力よりも理性こそが人間の本質であることを教えてくれる。だからこそ、泥棒に未来はなく運命は2人に厳しい。それでも、逃亡中に別行動になっても双方相手を見捨てず捜すなど、永遠の友情を結んだ彼らの姿はたとえ白骨になっても美しかった。

監督     ケリー・ライカート
出演     ジョン・マガロ/オリオン・リー/トビー・ジョーンズ/ユエン・ブレムナー/スコット・シェパード/ゲイリー・ファーマー/リリー・グラッドストーン
ナンバー     232
オススメ度     ★★★


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