韓国人牧師の元にかってきた1本の電話。夫婦と老婆と幼い2人の子供が救出を待っている。カネもあてもなく、捕まれば命はない。牧師はすぐに脱出計画を手配して動き始める。映画は、国境を越え中国に入った一家五人の脱北者の逃走に密着する。援助してくれるブローカーはカネでしか動かない。基本は徒歩か自動車、渡河時だけ船に乗る。中国大陸を縦断してベトナム、ラオスを経るが、北朝鮮の友好国家では絶対に当局に見つかってはならない。それでも長い逃亡生活の間には、一息つけるセーフハウスが用意されていて、徐々に彼らは外の世界に慣れていく。初めて口にする美味しい食べ物でおなかを満たした彼らの表情から少しずつ険しさが取れていく過程が、北朝鮮という国家の実態を饒舌に語っていた。
キム牧師の元にビデオ通話が入り、脱北した5人家族が行き場をなくし困っていると言う。礼金を用意できない脱北者はキム牧師のような資金を持つ慈善団体に押し付けられる。
5人は中朝国境から中越国境を目指す。脱北者には懸賞金が掛けられている。クルマでの移動、当局に見つからないように息をひそめなければならない。その間、北朝鮮国内で密かに撮影された映像が挟み込まれる。近代的なビルが林立するピョンヤンに比べ圧倒的に物不足の農村。食料だけでなく道具もインフラもない。人糞を肥料に加工するために供出させるあたり、もはや21世紀の出来事とは思えない。一方で、独裁の象徴であるマスゲームにも切り込む。ダンスや体操を叩き込まれた子供たちが一糸乱れぬパフォーマンスを見せる裏側では、血のにじむような訓練が日々行われている。恐らく全国から選抜されたフィジカルエリートなのだろう。脱落者がどんな運命をたどるのかは想像に難くない。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
一家5人は無事メコン川を越えタイに入る。そこでやっと自由の身になる。それでも、最年長の老婆は金正恩に対し尊敬の念を抱いたまま。金日成の時代から洗脳され続けていた老婆の心は簡単には変えられないという現実が切なかった。
監督 マドレーヌ・ギャビン
出演
ナンバー 12
オススメ度 ★★★