友人が捕まった。せっかくのキャリアが台無しになった。有罪は確実だが刑を軽くするために嘆願書を書いた。物語は、犯罪者となった映画監督の友人たちが、彼の不在をネタに集まり、飲み食いしながら与太話に興じる姿を描く。学生時代から才能の片鱗を見せていた。新作も評判が良かった。なのに、ちょっとした出来心で社会的地位は地に落ち、もう映画は撮れないかもしれない。そんな男のために集まった男女6人が、本題から脱線しまくって些細なことで討論する。酒の勢いでさらに本音が出るともはや手が付けられない。映画の毒に身も心も染まってしまい、30歳にもなってまだ進むべき道が見つからない彼らがひとりの監督の生き方を巡って言い合う過程は、大人になることを拒否し続ける難しさを訴える。
俳優のタカノ、劇団主催のリョウタ、OLのチホ、職業不詳のコンちゃん、ナナコ、ユキノは不正アクセス禁止法で逮捕後釈放された染田を励ます会を開くが、染田は途中で帰ってしまう。
チホは染田と大学の同級で、恋人になり損ねた経緯がある。拘留中の染田の下着を洗濯したり、同じ会社に仕事を紹介したりするなど、他の男と結婚していても何かと面倒を見ている。チホの会社の休憩室で、ふたりが一緒にカレーを食べただけであれこれと憶測を働かせる同僚たちが、他人の噂話でストレス発散しつつも、いちいち誰かの言葉尻を捕えて絡む会話が奇妙なユーモアを醸し出す。一方で、映画・演劇界隈の人々が集合した染田不在の飲み会では、沈黙を作らないためだけに他愛ない言葉遊びを繰り返す。そこには、“俺たちはフツーの生き方を拒んだ特別な人間” という根拠のないちっぽけなプライドが見え隠れし、その滑稽さをデフォルメしたセリフの数々は、どこまで現実の厳しさから夢に逃げ続けられるかを競っているかのようだった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
チホの会社では、染田の評判は良かったのだが、いつしか彼が前科者だということがバレている。必死で染田をかばうチホの涙は、真実の恐ろしさを象徴していた。
監督 太田真博
出演 松下倖子/青野竜平/後藤龍馬/安部康二郎
ナンバー 215
オススメ度 ★★★
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