こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

今はちょっと、ついてないだけ

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スライドショーが写し出すのはバブルの時代。あの頃はとりつかれたように働いていた。何もかもうまくいっていた。疑問も感じなかった。だが、やがて輝いていた日常は崩壊する。物語は、人間不信になったカメラマンとTV局を辞めた元プロデューサー、目標を見つけられない美容師、一発逆転をねらうピン芸人が、共同生活を経て新たなステップを踏み出すまでを描く。苦い記憶に縛られていては前に進めない。自分を憐れんでいるうちは他人ともかかわれない。そんな彼らが、少しずつ心を開き、お互いの心を交差させていく。急がなくてもいい。そっと見守ってくれるだけでうれしい。街角で声をかけてきた女と美容師が話すシーンが、自信を持てない21世紀の若者を象徴していた。誰でも全肯定されるとうれしいが、そこにつけこむ手口がリアルだった。

肩代わりした借金を完済した立花は、元美容師の瀬戸が住むシェアハウスでカメラマンの仕事を再開する。そこに、宮川や会田が転がり込み、立花の仕事を手伝うようになる。

かつてドキュメンタリー番組で探検家のようなことをやっていた立花は、当時を思い出しては感傷に浸っている。後悔なのか恨みなのか、選択を間違わなければもっとうまくいっていたはずという未練が消えない。すっぱり忘れられずいまだ引きずっているあたり、男の弱さがにじみ出ている。いや、もう男気を見せなくてもいいと安心しているようでもある。職も家族も失った宮川は、立花を手伝ううちに明るさを取り戻していくが、立花もまた宮川の切り替えの速さに救われている。瀬戸や会田も、誰かに必要とされていることが生きるエネルギーになっている。迷惑かけたっていい、他人に頼り頼られる人間関係が人生を豊かにするとこの作品は訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

会田を撮った動画がバズったのを機に立花は過去に決着をつけるべく、ある男の元に向かう。彼らの因縁は明示されないがカネと女が絡んでいるよう。それでも、気持ちを切り替えるには “水に流す” のも大切とこの作品は教えてくれる。

監督     柴山健次
出演     玉山鉄二/深川麻衣/音尾琢真/団長安田/高橋和也/かとうかず子
ナンバー     47
オススメ度     ★★★


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