こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウォーロード/男たちの誓い

otello2009-05-11

ウォーロード/男たちの誓い 投名状

ポイント ★★★
DATE 09/5/8
THEATER THRP
監督 ピーター・チャン
ナンバー 108
出演 ジェット・リー/アンディ・ラウ/金城武/シュー・ジンレイ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ジェット・リー扮する将軍が戦場で居並ぶ敵に矛を横一閃、一気に6人の足首をぶった切る。数多の映画で描かれてきた合戦で、これほど効果的な攻撃法があっただろうか。胸や首を狙うのではなく、片足を使えなくすることで相手の戦闘能力を奪い、なおかつ致命傷を与えないことで敵側の負担を増やす。このシーンに見られるように、彼の役は武人として優れているだけでなく軍略にも富む。しかし大義ゆえに信義を捨てる苦悩と悲しみを負わなければならない。物語は共に生き共に死なんと誓った男たちの友情がはかなく壊れゆく過程で、人間の器の大きさは治める範囲や人数に比例することを教えてくれる。


太平天国の乱に敗れた清軍の将軍・パンはリィエンという女に助けられ、彼女の夫・アルフが頭目を務める盗賊団に合流する。パンはアルフに清軍に加勢するよう説得、弟分のウーヤンと3人で「投名状」という義兄弟の契りを結ぶ。その後、盗賊団は太平軍の小隊を撃破し清の正規軍に迎えられる。


義理人情に厚く信頼を第一に考えるアルフは部下に尊敬されている。一方、裏切りや姦計の中を生きてきたパンは、時にだまし討ちも辞さない。ウーヤンは感情ではアルフを支持するが、乱世においてはパンの現実路線が必要と感じている。アルフは蘇州城攻略戦で敵兵の助命を条件に開城させたのに、結局パンによって約束を反故にされてしまう。武骨にしか生きられないアルフと天下泰平のための犠牲と割り切るパン。このあたり、アルフは数千人規模の集団ならばまとめられても、広大な江南の地を治めるほどの器量はないことを物語る。時と場合によっては誠実さが弱点となることを身をもって知ったアルフの無念を、アンディ・ラウは苦悶の表情で演じる。


雲霞のごとき大軍や英雄豪傑の大活躍といったスペクタクルに重点を置くのではなく、戦争を「補給」の視点で描くところが目新しい。戦争はほとんどが移動と待機、実際に干戈を交える前の食糧や武器の充実度で兵の士気はあがり、勝敗が決する。四千人の捕虜を食料がないという理由で矢を浴びせて皆殺しにしたり、袂を分かったアルフを暗殺するパンの判断は、冷血ではあるが冷静。「一将功なりて万骨枯る」という故事成語をかみしめるような作品だった。


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