こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

親愛なるきみへ 

otello2011-08-06

親愛なるきみへ DEAR JOHN


ポイント ★★★
監督 ラッセ・ハルストレム
出演 チャニング・テイタム/アマンダ・サイフリッド/ヘンリー・トーマス/リチャード・ジェンキンス
ナンバー 186
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


男は引きとめてくれるのを期待している、女は抱きしめられたいと願っている。お互いの気持ちは同じなのに、小さなわだかまりと現在の生活を捨てる勇気が持てず、あと一歩が踏み出せない。ふたりがもう過去に戻れないことを悟るシーンの感情の揺らぎが切ないほどリアルだ。燃え上がる恋、文通で育んだ愛。しかし、会えない時間が確実にふたりの隙間を広げ、いつしか冷めていく。映画は、紛争地を転々とする兵士と女子大生の出会いと別れを通じ、封書という今や絶滅危惧種となった通信手段に頼る男女の心の変遷を描く。


2週間の休暇で帰郷したジョンは女子大生のサヴァナと知り合い、たちまちふたりは恋に落ちる。除隊後の再会を約束しジョンは部隊に復帰するが、911テロが起き任務の延長を申し出る。


電話もメールも通じない僻地で常に危険にさらされているジョン。そんな状況で、サヴァナが綴った手書きの文にジョンはどれほど励まされたか。便箋に文章を認めるのは、一方で自分自身を見つめ直す作業。だからこそその言葉は脳裏にいつまでも残るのだ。だが、突然音沙汰が途絶え、久しぶりに届いた便りはジョンにとっては絶望に等しい知らせ。ジョンは国のために命をかけているのに、サヴァナは目の前の幸せに縋る、彼女の裏切りが許せず手紙をすべて火にくべるジョンの胸の内は痛いほどの共感を呼ぶ。


◆以下 結末に触れています◆


ジョンの他人と打ち解けない性格は、自閉症気味の父親に原因がある。母がいない家庭で男手ひとつで育ててくれたのに、10代の反抗期になると父を疎ましく感じ、逃げるように陸軍に志願したジョン。休暇中も父との溝を埋められなかった。ところが父が残した膨大なコインのコレクションを見て、ジョンはやっと、“役に立たないものにも価値はある”という父の遺志に気づく。相手がいなくなったら思いは伝えられない、ジョンは他の男と結婚したサヴァナを幸せにするのが真の愛と信じ、彼女を陰ながら助ける。ジョンの生き方は不器用だが、寡黙な男の一途さが最高にクールと思える作品だった。